「香港さん、また会いに行ってもいいかな?」

香港さんはいつも私を誘惑する。夜になると、あの煌めく宝石箱のような夜景をちらつかせる。

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「ほら、100万ドルの夜景、まだ忘れてないでしょう?」

初めて香港を訪れたあの日、市場の活気あふれる香りに包まれ、迷路のような路地をさまよった。異国の喧騒に圧倒されながらも、どこか心地よい刺激に胸が躍った。

だけど香港さんとの初対面は決して穏やかじゃなかった。人混みの中、迷子になった時は泣きそうになったし、慣れない広東語に戸惑い、レストランでは注文すらまともにできなかった。

「ねぇ、香港さん。ちょっと厳しくない?」

そんな問いかけに、香港さんは笑いながら返してくる。

「最初から簡単に受け入れてくれないほうが、楽しいでしょ?」

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そういえば、あの夜に初めて食べた熱々のワンタン麺、言葉も通じない中でお店のおばさんが笑顔で差し出してくれたお茶の温かさ。あの瞬間、香港さんとの距離がぐっと縮まった気がした。

以来、日本に戻っても、ふとした瞬間に香港さんを思い出す。中華料理屋の香辛料の香り、雑誌で目にする高層ビル群の写真、そんな些細なことが胸の奥をくすぐる。

「また私を誘惑してるんでしょ?」

香港さんは微笑んで答える。

「いつでも待ってるよ。次はどんな新しい私に出会えるかな?」

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香港さんはいつでも変化し続けている。だからこそ、また会いたくなる。自分自身も少しずつ変わっているから、次に香港さんに会った時、今度はどんな私がいるかな?楽しみだ。