思い出に残るご飯はなんですか。
私は、から揚げです。

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私は学生時代祖母に預けられ、育ててもらいました。
当時私の周りで色んなことが起こり、精神的に参りご飯を食べれない日もあったりしました。食べれたり食べれなかったりする日の中で、祖母はいつも温かい料理を作ってくれていました。

祖母との2人暮らしは決して裕福とは言えませんでした。

安いスーパーまで自転車で30分かけて買い物に行き、帰りに「あまりにもスーパーが遠すぎる」という理由で揉めながら帰ったりしました。

あるときは河川敷へ土筆を取りに行きました。
河川敷に生えている土筆を、本当に食べるのか否か揉めて食べないことになりました。
数日後、河川敷で散歩していると土筆を取った所で犬が戯れているのを見て食べなくて良かったという話になりました。

祖母に預けられていた当時、私の周りで色んなことが起こりました。
そのことで私はだいぶ疲れてしまい、食事が食べれない日が続きました。

日々なんとかココアを飲んでやり過ごしていました。
フラフラで起き上がれもせず、ただ過ぎていく日々に耐える。
そんな毎日を過ごしていました。

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今でも思い出すと十何年前の出来事なのに、心の傷は完全に癒えてはいません。
食事が取れなくなってしまっても、祖母は毎日ご飯を作ってくれていました。
作ってもらっても食べれず、残してしまうので作るのをやめてほしいと伝えた日もありました。

それでも祖母はご飯を用意してくれました。
温かいご飯を食べれば元気になるからと言いながら。
申し訳ない気持ちはあり、食べれず残すことに罪悪感が湧くことに疲れていました。

ある日祖母がから揚げを揚げていました。
キッチンペーパーが無かったのか、新聞紙を広げてその上に揚げたものを乗せていたのを何故か覚えています。

にんにくと醤油の強い匂いが、キッチンからリビング、家中に香っていました。
その強い匂いに惹かれ、なんとなく部屋から出て1つ食べてみました。
食べてみるととても美味しく、今までの突っかかった何かが解けるような感覚がありました。

それまで無くしていた「食事を楽しんでいい」という感覚を思い出した瞬間でした。
「食事を楽しむ」そんな当たり前のことを、日々の辛さで忘れていたことに驚きました。
その日のご飯は、色んなことを乗り越えていかなければならない、身近な未来を支え照らす一つになりました。

その日がなければ、私はご飯を食べることを楽しめなかったかもしれません。

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から揚げと白米、お味噌汁とシンプルな晩御飯でしたが強く印象に残っています。
それまではから揚げを意識して食べた事はなく、美味しいものの一つとして食べていました。けれどその食事を楽しんでいいと思い出した日以降、から揚げは私の大好物になりました。

受験の時も、失恋をした時も、就職をした時も人生のターニングポイントとなるときに、祖母は必ずから揚げを作ってくれました。
祖母と離れて住んでいる現在も、会うたびに祖母はから揚げを作って持ってきてくれます。

私も大人になり料理をするようになりました。
祖母が作ってくれたように作っても、なかなか上手く作れませんが節目になる時に作っています。

祖母のから揚げはどんなに冷めていても美味しいです。
祖母も年齢を重ね油物を作るのが、少し怖い年齢になりました。

祖母自身も「今回で作るのは最後かもしれない」といいながら会うたびに作ってくれます。
それが冗談であるうちに、私のから揚げを作る力が上がって祖母に食べてもらいたいなと思っています。

あの時のから揚げがあるから、私は今食事を楽しめるし、好きな食べ物が増えました。

祖母のから揚げは、世界一美味しいです。
どんなお店より。
どんな人が作るよりも。