海岸で思いっきり呼吸して。お金の不安に支配されていた頭を解放した

海外生活で初めて手に入れた仕事を、ついこの間手放した。
辞めるつもりなんてなかった。後のことなんて何も考えずに辞めた。
仕事は好きだったし私の生活の一部だったが、半年以上が経って、ちょっとしたことをきっかけに気持ちが冷めたような感覚になった。もういいやって。
だから、2週間後を最終日として、もうここでは働けませんと伝えた。
ただ、タイミングが悪かった。
先月、3週間ほどのホリデーをもらったので、たくさん旅をした。
そのとき、もともと中古で買った車にガタが来て、修理にかなりの大金を費やした。
ちょうど引っ越しも終えたばかりで、新居の保証金も払っていた。
だから、この国で稼いだお金は、ほとんど底をついていた。
新たな仕事を見つけるため、いろいろなところに履歴書を出した。
少しわくわくした気持ちさえ抱きながらこれまで経験したことのないような分野の仕事にもたくさん応募した。
しかし、仕事を辞めるまでの2週間、一向にどこからも返信がない。
そもそも、永住者でもなく、英語がネイティブレベルでもなく、この国でのビザは残り4か月。そんな私にとって仕事探しが簡単でないことは明らかだった。
もしかしたらこのまま仕事が見つからないかもしれない。このとき、人生で初めて「経済的安定」を失った。
両親は公務員で、ありがたいことに、子どもの頃から何不自由なく生活させてもらった。
自分でお金を稼ぐようになってからも、生活の中での出費はあっても、貯金ができるほどの余裕を持った生活ができていた。
仕事を辞めたのは、「精神的安定」のためだった。上司による理不尽なことが立て続けに起き、敬意のない発言をされた。そもそも物事の考え方も違い、彼女のいろいろな行動が自分にとってストレスになった。
忙しそうだった彼女も余裕がなかったのかもしれないが、彼女に対して人としての尊敬を失い、あまりに幻滅した。もうこの人の下で働きたくないな、と思った。ストレスもなく、精神的に平穏な状態でいたかった。
しかし、そこを離れた後は精神的にボロボロだった。保証された収入の見込みもなく、必要な出費で銀行の残高は減っていくだけだった。時間は有り余っているから思い切って何かしたいのに、この時間を思い切り楽しむにはお金が必要だった。
履歴書を出し続けることにも嫌気がさして、何でこの仕事に応募しているのだろうと疑問すら抱きはじめていた。
毎日悪夢を見たし、パートナーにも八つ当たりした。ふとした時に涙が止まらなくなり、自分の人生が不安になった。誰にもメッセージの返信をする気が起きず、既読のまま放置していた。
仕事を辞めたことをきっかけに、すべての状況がどんどん悪くなっていくように思えた。
ビザの期限が迫っている。その現状が自分にもっとプレッシャーをかけてくる。いつまでもここにいられない。
今、考えないといけないことがたくさんある。行動しないといけないタイムリミットがある。ビザが切れたらどこに行くのか。何をするのか。それともこの国にとどまりたいのか。だとしたらとどまる手段を見つけないといけない。パートナーとの未来は?一緒にこの国を出るのか、ここで過ごすのか、遠距離に耐えるのか。
でも、経済的な基盤を失った今、行動する余裕や頑張るエネルギーがなかった。どう頑張ってもポジティブになれず、これからのことを考えるよりも、過去を引きずった。
自分の過去の選択がすべて間違っていたように思えた。過去の自分を責めたし、未来の自分への希望ももてなかった。
どうしてあの時、辞めると言ってしまったの?
もう少し頑張れなかったの?
そんなとき、何かとお互いの状況を報告しあっていた友人からメッセージが来た。
彼とはこの国で出会い、ご飯を食べながら語り合ったり、遊びに行ったりしていたが、少し前に日本に帰ってしまったので、メッセージのやり取りだけになっていた。
「電話できる?少し前が見えにくくなってるけど、闇雲にならないように!」
今の自分の状況をすべて話した。すると彼に言われた。
「一回考えんの、やめたらいいねん。もう今、頭で考えることばっかりしてしまって、心で感じることを忘れてるから。ただ草の上でぼーと寝転がるだけの日が必要な気がするわ。パートナーとただおいしいもの食べたりとかさ」
あー、そっか。本当に大事なことを忘れていた。
とりあえず車で海までドライブした。近くのマーケットで買ったパンを片手に、海岸まで降りる。海風にあたり、鳥の声を聴きながら、ただぼーっとした。
こんなきれいな場所に、すぐに来られるようなこの国に住める今がありがたいと思えた。
ただ息が詰まるような毎日のなかで、思考に自分を支配されていたのだと気付いた。だから思いっきり息を吸った。そして思いっきり吐き出した。
とりあえず、帰ったらパートナーを思い切り抱きしめよう、そして一緒においしいものでも食べよう、そう思った。
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