他の色と比べたら、ピンクは私に1歩近づいている。もしくは私がピンクに1歩歩み寄っている。そう考える理由はいくつかある。

まず、理由その1。
なんとなく私のなかにあるテーマカラーがピンク色であること。
周りの人からもなんかピンクっぽいと言われる。
だからか、私の周りは気がついたらピンクのもので溢れていた。
お財布もパソコンケースも手帳もスマホケースもポーチも全部ピンク。筆箱の中のシャーペンまでピンク。自分で買ったものもあるし、貰い物もある。ピンクのものが揃ったからテーマカラーがピンク、というより、無意識のうちにピンクのものを揃えていた。

そして、理由その2。
色で唯一エピソードがあるのがピンクである。そもそも色に関するエピソードトークがある人の方が少数派だと思うけれど。
言葉数は多くないけれど博識で、何かと助けてくれる祖父とのエピソード。

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遡ること約18年前、私が3歳頃の話。
当時の私の中でブームだったのは1箱に6個入っている、チョコレートでコーティングされた1口サイズのバニラアイス。普通は台形だけど、たまに違う形が出るアレ。

私はそのアイスの形よりも楽しみにしているものがあった。それはアイスピック。アイスを刺すために入っていて、それが赤だったり青だったりする。今日は何色なのか。それが何よりの楽しみだった。

「きょうはなにいろかなぁ」「何色だろうね」そんな平和な会話をしていた祖父と私。「あ、ぴんくだった!」「よかったね、ピンクだったね」キャッキャと喜ぶ私とそれを微笑みながら眺める祖父。

このやりとりを一番近くで見ていた母は、どこからどう見ても赤のピックを"ピンク"だとはしゃぐ私たちを見て心配していたという。ピンクを赤だと認識してしまわないか、と将来を心配したという。

いや、そもそもなぜ祖父は「それは赤だよ」と訂正しないのか。祖父が訂正しない理由は明確だった。
祖父には"否定"がなかった。

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きっと赤のピックを指さして、青だ!と私が言っても、うん、青だったね、と言ってくれるような全肯定の祖父。
私が明らかに失敗したピアノのコンクールを聴いた祖父は「よかったよ」と言ってくれた。
祖父の部屋に行って、一緒に囲碁をして欲しいと言ったら、祖父が何より楽しみに毎日観ている海外ドラマの放映時間だったとしても必ず囲碁盤を出してくれた。横目で画面を見ていたけれど。

そんな祖父と1度だけ2人で買い物に出かけたことがある。私が小学校3年の時だった。2人きりで出かけるのはこれが初めてだった。

初デートに選んだ先は雑貨屋さん。私に似合うもの1つ選んで、と頼んだ。5分ほどたって祖父が選んでくれたのはピンクのシャーペンだった。主に輸入雑貨を取り扱っているお店だったので、ピンクとひとくちに言ってもショッキングピンクの柄に紫色のグリップが付いているものだった。青とか緑とかもあったけど、祖父は私にピンクをあてがってくれた。

その日から、何度筆箱を変えても、何度筆箱の中身を変えてもこのシャーペンがいなくなることはなかった。理由その1で書いた筆箱に入っているピンクのシャーペンだ。もう壊れて使えなくなってしまったけれど、テスト前など大事なことがあるときには、このシャーペンを握ってから臨んでいる。

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このときを機に私の周りにはピンクが増えていった。自然とこのショッキングピンクが浮かないように、無意識に私の生活から離れていかないように、このラインナップを作りあげていったのかもしれない。

ピンクは私のテーマカラーと言ったけれど、もはやパワーカラーと言った方が正解なのではないか。ピンクと私の距離感は他の色より1歩近い距離感と言ったが、1歩どころか、私の中にはいりこんでいる、"ゼロ距離"かもしれない。