医師対AI。負けが見えてる今、医者になろうとしている意義を考える

AIの進化に伴い、今ある職業の多くが消滅するとされている。医療現場でも医療事務や薬剤師などがAIに取って代わられる可能性が高いとされている。現時点で医師は仕事を奪われる可能性が低いとされているが、生成AIの進化を見るととてもそうとは思えない。
「AIが医師の仕事を完全に奪うことができない理由」をChatGPTに尋ねたところ、次の5つの理由が返ってきた。共感や倫理判断の欠如、複雑なケースへの対応ができないこと、人間と自然なコミュニケーションが取れないこと、情報が少ないと技術に限界があること、AIが誤診をした際の責任の所在が決まっていないこと(法的・倫理的な制約)が挙げられた。
これらの理由から、AIはまだ補助的な立場でしかないとされている。しかし、「現時点では」という条件付きであり、AIがさらに進化したらこれらの課題を解決し本当に医者が必要でなくなる日が来るのではないかと思う。
AIが苦手とされる共感やコミュニケーションは、人間のやり取りを大量に学習して個々の心情変化の規則性を見出せば、患者それぞれが求める医師の反応をオーダーメイド化してくれるかもしれない。
実際、患者はただ医師に共感してもらいたかったのに医師は淡々と医学的なアドバイスをするので患者は不満に感じる、ということがある。かと思えば、共感より結果や結論を求める患者もいる。
AIが患者それぞれの会話や身なりからコミュニケーション方法を解析して、細かい対応をとれるかもしれない。例えば、「話を聞いてほしいこの人は⚪︎秒以上の沈黙でない限り口を挟んではいけない」「語尾の低さ、呼気から検知したカフェイン濃度から昨日徹夜したと考えられるので、今日は検査結果を2分以内で説明する」「アイシャドーのグラデーションの丁寧さから忙しさを割り出して労う。義母の話が出たらとにかく共感する」など。
人間と違ってAIは疲れて対応が荒くなることもないだろうし、期待外れな回答をされて患者の気分が晴れないことが減るかもしれない。
人間の心理をAIの手玉に取られて支配されているようで怖いが、それで私たちのメンタルが保たれるならまんざらでもない。
以上はあくまで私の妄想に過ぎない。しかし、専門知識の記憶はAIが既に勝っている中でデータの集積をもとに倫理観や共感性をAIが得られたら、今度こそ人間は必要なくなってしまうのではないか。
そもそも人間の共感や倫理判断は完璧ではないし、長年の経験でようやく得られるものである。即戦力となるAIの方がコスト面でも都合がよい。そうだとしたら、今私が医師になるために勉強している意義は一体なんだ?
AIとの勝負が負け確定だとしたら、AIに支配される前に自分がAIを使いこなして補助的な立場から動けなくするしかないと考える。
自分の診断に間違いや見落としている点がないかAIに確認を求めたり、私情を挟んでしまいそうな倫理判断に迫られたらAIに論理的な判断を求めたり、患者さんの説得がうまくいかないときはAIに過去のコミュニケーション履歴から最適な会話の流れを提案してもらったり。モンスターペイシャントに頭を悩ませられることを減らすことだってできるかもしれない。
医師は患者さんにとって情報を提示する立場であり、必ずしも決定権を握っているわけではない。AIもまた医師に情報を提示する立場であってそれを使うかどうかは医師次第だろう。医療現場に関わらず、AIはあくまで相談役。主導権も決定権も私のもの。
賢く、時にしたたかにAIと付き合って生きたい。
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