「女性だから丁寧」なわけじゃない。性別よりもずっと大事な「個人」

私は昨年の夏から毎週土曜日に小料理屋でアルバイトを始めました。本業とは別の仕事ですが、店長と女将さん夫婦が切り盛りする小さな店で、板前さん数人とホール担当のアルバイトが数名いるアットホームな職場です。
年末にベテランのホール担当アルバイトの女性が辞めることになり、新たに大学に入学したばかりの19歳の男子学生2人が採用されました。
2人は友人ではなく、それぞれ別々の大学に通っているそうですが、たまたま同じタイミングで面接を受けたとのことでした。
ところが、女将さんは彼らの採用にあまり良い顔をせず、後から店長が「自分が喜んで採用した」と話してくれました。
私は毎週土曜日のみの勤務なので、彼らと一緒に働く機会は多くありませんでした。しかし、たまに一緒になると、自分の子どものように感じて可愛らしく思えました。
仕事ぶりはまだまだ不慣れでぎこちなかったですが、一生懸命さが伝わってきて、一緒に働く時間は楽しいものでした。
そんなある日のこと。冬場は鍋料理がコースメニューに含まれており、お客様と鍋の準備についてお話しする機会がありました。
その際、「今回は女性でよかったわ。前回男性でちょっと…」とお客様が言葉を濁されました。
そして鍋が進むうちに、「今日は女性だから美味しいわ」「野菜の入れ方も丁寧よね。前回は雑だったけど、今日は女性で本当にラッキー」と笑顔で話されていました。
褒められているようにも聞こえますが、この言葉には少し引っかかるものがありました。
実際、アルバイトを始めたばかりで家でも料理の手伝いをしていない男子学生に、そこまで高い期待をするのは酷だと思います。それでも、「男性だから小料理屋での接客は向いていない」と一括りにされるのは少し気の毒だと感じました。
私自身も20歳と24歳になる息子がいますが、家では全く何もしないので、「少しずつでも何かさせた方がいいかな」と考えさせられる出来事でもありました。
側でこの会話を聞いていた女将さんも、「だから男の子のアルバイトは今まで募集していなかったのよ」と、お客様と同じような反応を示していました。この反応には「中年女性による若い男の子への色メガネでは?」と思わざるを得ませんでした。
確かに女性の方が立ち振る舞いや仕草が上品というイメージがあります。しかし、それは経験や慣れによる部分も大きいと思います。時間をかければ男子学生でも十分やっていけるはずです。
この出来事から、自分自身も過去に色メガネで人を見てしまった経験を思い出しました。
それは25年ほど前、保育士として働いていた頃です。当時、男性保育士は珍しく、実習生として男性を受け入れていない園もある時代でした。その際、自分自身も「若干嫌だな」と感じてしまったことがあります。具体的には、「トイレはどうするんだろう?」「お昼休憩はどこで取るんだろう?」「子どもたちは慣れない男性保育士に泣いてしまうんじゃないか?」など、不安ばかりが先立ちました。
結果としてその男性実習生は3日で来なくなりました。
女性の実習生でも最後まで実習できない人もいましたが、3日は早すぎてびっくりでした。
特別辛く当たったわけではありませんでしたが、おそらく実習しやすい雰囲気ではなかったのでしょう。
それ以降、その園では男性実習生を受け入れることはなくなりました。
一度こうしたことがあると、実習先としてお願いする学校側も受け入れる園側も尻込みしてしまいます。
男性というだけで、実習しづらい雰囲気になってしまったことは、今考えると大変申し訳ない事をしたと思います。
きちんと単位を取って卒業して保育士の資格を使って働いてくれていることを願います。
その後、別の保育園で働いた際には男性保育士と一緒になる機会がありました。
当初は少し苦手意識もありましたが、その保育士は子どもたちとの関わり方が非常にダイナミックで、多くの子どもたちから慕われていました。また、お昼寝用ベッドの準備や運動会など体力を要する場面では率先して動いてくれ、とても助かりました。
その姿勢から「保育士という仕事や子どもたちへの愛情」が伝わってきて、その園には欠かせない存在となっていました。
これらの経験から、「好き」という気持ちや熱意さえあれば性別や先入観に関係なく認められるものだと思うようになりました。同時に、自分自身も無意識に色メガネで人を見ることがあるという事実にも気づきました。
「色メガネ」というものは誰しも持っているものだと思います。しかし、それに気づき、それを外そうと努力することで、人を見る目や接し方が変わります。
今回、小料理屋で男子学生たちと接する中で、自分自身も成長できたような気がします。男だから女だからと色メガネで見てしまうことで、「自分にも偏見があるかもしれない」、性別に関係なく、相手について知ろうとし、個々人の背景や能力、価値観を理解しようとする姿勢が大切と実感しました。
「女性は感情的」「男性は力仕事が得意」などの固定観念での判断をすることは少なくなってきましたが、まだまだ根っこの部分はあると思います。常識だと思われていることも、時代や文化によって変化します。性別だけではなく、個人としての特徴を見ることで、多様性を受け入れる柔軟な思考を育てることができます。
「人を見る目は、鏡のようなもの。そこに映るのは、相手の姿だけでなく、自分の中にある先入観」と何かで読みました。
性別という枠にとらわれず、一人ひとりをありのままに見つめることができるようになりたいです。
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