休職前よりも、今が断然楽しい。あのすごい占い師にお礼を言いたい

私の休職のキッカケは原因不明の体調不良だった。それはある日突然起こり、日常を180度変えた。とある日曜日、楽しい気分で定食屋に入った私は豚丼を食べ始めてすぐに違和感に気づいた。お腹は減っているのに、何度スプーンを口に運んでも次の一口が食べられない。変だなとは思ったが、疲れているのだろうと独り合点して、その日は早めに帰って寝た。寝て起きたら何とかなってるだろう、そんなふうに考えていた。
しかし、見立ては甘かった。予想に反して翌日もこの妙な状態は続き、数ヶ月経っても治らなかった。食事回数は3食から2食に減り、何もしてないのに体重が4キロ減った。はじめはダイエットになると喜んでいたが、直ぐにそうも言えない状況になってきた。上記の症状に頭痛と動悸がプラスされ、情緒も不安定になってきたからだ。あまりにも酷い日は病院にも行き、様々な検査をしたが、何の異常も見つからない。
上長に休みが欲しいと申し出たのは私からだった。仕事に行けないほど体調の悪い日が続き、出勤した日もありえないミスをするようになっていた。一週間のはずだった休みは改善の余地がないことから延びていき、医師と人事部と相談の上、無期限になった。食欲はないので食事は軽く済ませ、不安から逃げるようにほとんどの時間を寝て過ごす日々。時間が経つのが驚くほど遅く、休む前より辛かった。この頃はなぜこんなことになったのか、なぜもっと上手くやれなかったのか、そんなことばかり考えていたように思う。
転機が訪れたのは突然だった。寝てばかりいるのも疲れる。藁にもすがる思いである温泉施設を訪れた私は、気さくなオーナーに少し身の上話をした。原因不明の体調不良のこと、休職のこと、将来への不安。全ての話を親身になって聞いてくれた彼女は、私にとあるセラピストを紹介すると言った。私は少し安心した。初対面のセラピストに占い師を兼業しているとカミングアウトされるまで。それを聞いて、私は身の上話をしたことを後悔した。これが噂の霊感商法かと思った。しかし、彼女はセラピストでもあった。傾聴力があり、本音を引き出すのが上手い。
人生をやり直したいと溢した私に彼女は顔色ひとつ変えずにこう言った。「人生は何歳からでもやり直せますよ。今からやり直すとしたら何をしますか?」。ありきたりだが、斬新な視点だと思った。「海外旅行に行きたいです」。学生時代は貧乏で卒業旅行も行けなかった。「後は?」「免許も取りたいです」。休職前、私は深夜の高速の車載映像をよく見ていた。流れる景色が綺麗で、一人で運転するのは気持ちよさそうだった。しかし、仕事で手一杯で免許を取る余裕はなかった。朝は通勤電車で疲労困憊、仕事中は気が抜けず、家では疲れて眠るだけ。友人に相談したところ、皆そんなものだと言われた。私もそうだなと納得した。考えるのは無駄だと思って、日々を楽しもうと努めた。それなのに、今度は体がおかしくなった。
占い師にやり直したいことを話していたはずなのに、気づいたら自分でも気づかなかった休職の理由を話していた。占い師って凄いなと思った。そして、これをキッカケの一つとして私は会社を辞めることを決断した。今はこれまでの人生でやり残したことを一つずつ消化する日々を送っている。不思議なことに過去の遺恨を回収する途中でこれからやりたい事が幾つか出てきた。このエッセイもその中の一つだ。
これから先どこに辿り着くのかはまだ分からないが、未来を先読みして動いていた休職前よりも今の方が断然楽しい。納得感を持って日々を生きられているからかもしれない。色々な意見があると思うが、私は休職して良かった。あの占い師とはもう何の接点もないけど、またいつか会う時にはお礼を言いたい。「あの時人生はやり直せると言ってくれたから、私は立ち止まる勇気を持てました。これからも迷いながらも進んでいこうと思います」
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