日本は本当にいい国なのか。日本人は本当に素晴らしいのか。

私は、ある意味日本はいい国だと思うし、ある意味いい国とは言い切れないと思う。
日本人も同様だ。素晴らしい考えの持ち主だと思うし、他の国の考えを取り入れてもいいのではないかと思うこともある。

だけどやっぱり、私は日本が好きだ。

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バリに旅行した時、マニラ経由で帰国した時の2つの経験を共有したい。

まず1つ目は、バリからマニラまで隣に座った人について。私は飛行機はどんな便でも窓側に座りたい人なのでその便でも窓側に座り海と雲を眺めていた。すると隣の若者がiphoneをにゅっと窓に伸ばして写真を撮り始めた。びっくりした私は反射的に隣の人に振り向いてしまった。

私が半分ほどおでこをくっつけて見ているのに、なぜそこにスマホを割り込ませる?なぜ、今?

なんてわがままな人なんだ、と隣の人への居心地の悪さを感じつつマニラに1時間遅れで到着した。
窓側の私はいつもギリギリまで着席し、他の乗客がいなくなり始めて空いてきた頃に飛行機から降りる。

いつも通りぼーっと乗客が降りていくのを眺めていると、例の隣のフィリピン人が降りる時が来た。彼が立ち上がった瞬間、彼のズボンのポケットからiphoneが滑り落ちた。
びっくりした私は反射的に”Excuse me! Your phone!”と声をかけた。
すると彼は”Oh, thank you, thank you”と繰り返しながら降りて行った。

彼は誰かを待っていたようで飛行機を降りて少ししたところでまた遭遇し、そこでも再び”Oh, thank you,  thank you”と繰り返していたし、隣にいた連れの方も笑顔で私のことを見ていた。そして再び成田で彼と遭遇した。そこでも”Oh, thank you, thank you”と繰り返された。もはやその時は彼ではなく彼の連れが私を呼び止めた始末。

私も海外の経験は多少あるが、確かにあの状況ならスマホは盗まれても仕方がないはずだ。というより盗まれる確率の方が高い気がする。約10万円のデバイスと個人情報の詰まった手のひらサイズの代物、改めて考えるとなんて素晴らしいものなんだろう。乗客は少ないし。なんなら持ち主が意図的ではないものの置いていったものだし。日本語で言うなら、棚ぼただ。でも、だからこそ。だからこそ彼に返さなければならないのだ。

しかし何も考えずに私は呼び止めて手渡した。これは日本に住む日本人だからこその行いなのではないか、と考えるようになった。

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2つ目はマニラから成田まで付き添ったカナダ人女性だ。
彼女は全盲で、機内持ち込みサイズのスーツケースと白棒を持っていた。空港内での荷物検査の際、空港スタッフはスーツケースをレーンに載せる手伝いをしないどころか、白棒を取り上げた。

その後私だったので、誰も手伝っていなかったレーンから荷物を下ろすことを手伝った。
マニラから成田までのトランジットの指示はなく画面を眺めているとゲート変更の表示があった。そのゲートはものすごく遠くて、バスに乗る必要があった。

私は、めんどくさいな、荷物を預入しておいてよかったな、と思いながら歩いていた。しかし私はそこで全盲の女性を思い出した。

一旦、彼女のところに戻って見ると、案の定、彼女は元のゲートにいた。
びっくりした私は反射的に腕を組んでスーツケースを運んで連れていくことにした。
聞くと、飛行機に乗るまでは補助があったが機内からは誰も補助がいなかったとのこと。そして、直行便を取れなかったので、カナダまで2回のトランジットが必要とのことだった。
ゲート変更に伴う大混乱なバスに一緒に乗り、荷物を運び、バッグからぶら下げていたペットボトルも空だったので補充したりなどしながら1時間半の遅延の飛行機を待った。

1番最初に手伝いの必要な方が乗れるというアナウンスがあり、彼女とゲートに行くと車椅子じゃないからダメだと断られた。その瞬間彼女はなぜダメなのかと声を荒げた。それが効いたのか、補助スタッフつきで1番で乗り込んでいった。

成田に降りた時、まだ誰も彼女の荷物を下ろしていないことを確認すると半分割り込むようにして飛行機から出て日本のスタッフに声をかけて介助を依頼した。
するとインカムを使って誰かを呼び、2分ほどで担当スタッフの方が来て彼女のスーツケースを持ち、腕を組んで連れて行ってくれた。
私はその瞬間、これこそ日本人だ!と思った。
連携がしっかりされていて、無条件で、笑顔でサポートをしてくれる。
私の知り合いでも白棒を持っている方を見かけたら迷わず「お手伝いしましょうか?」と聞く人もいる。

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スマホ関連でいえば、私も1度ずつスマホと定期を落としたことがあるがそっくりそのまま帰ってきた。そういうもんだと思っていた。
これは色メガネなのだろうか。

だけど隣の席の若者からは、同じフィリピン人だったらきっと話しかけられていただろう。フィリピン人は愉快でおしゃべりが大好きで誰とでもすぐに仲良くなれるから。
そして、もし自分の主張をはっきりする国ならあの女性への不当な扱いを空港スタッフに批判できたのだろうか。日本の、察する文化というのはあのような状況の場合不利に働くのは想像に難くないし。

これは日本、そしてどこかの国への色メガネなのだろうか。

電車の中で網棚に荷物を置いて腕組んで眠れるのって日本以外ないとは思うんだよね。八百万の神様が私たちの行いを見守っているし、島国の、村社会で育った私たちに染みついた慣習なのかも。何ももらっていないし、何も見返りを求めていない。反射的にした行いが素晴らしいことだったのかも。日本っていい国かも。
いやいや、それとも、この国籍ごとに考える私のこの価値観すらも、色メガネなのだろうか。