最高な自分は突然に。夜中にやってきた「切ろう」という衝動で大優勝

昨日、髪を切った。
「ショートヘアにしようと思うのですが、どういったスタイルがいいと思いますか?」
数多いる美容師の中から奇跡的に出会った絶大なる信頼をおくお姉さんにDMを送る。
「今日はどうします?」
「まだ伸ばそうかなと思っています」
10日前の自分のセリフを思い出し、不意に笑いが漏れる。
物事というのはこうも唐突に動き出すものなのだなあ。
「ショートボブだけど前の方にレイヤー入ったスタイルはどう?好きそう」
「かわいいな!」
すぐに返ってきたメッセージにはご丁寧にK-popアイドルの参考画像付き。
自分では見つけられなかった自分好みのスタイルに思わず声が出る。
業務外に本当に申し訳ない半分、本当にありがたい半分。
そんな想いを返信に乗せて、参考画像に似たスタイルをネットの海に探しにいく真夜中。
カーテン越しに明るくなりはじめた世界に慌ててスマホの画面を落とし瞼を閉じる。
アラームはいつもより多めに、音量はMAXにセット。
目を覚ましたら違う自分に会う。
伸ばし始めたきっかけをどこかに記していないものかと過去のエッセイを見返すと、なんと2023年7月のエッセイに書いていた。
ちなみに、特に理由はないらしい。気分を変えたかっただけだと。
どこで記憶の改ざんが行われたか定かではないが、少なくともこの1年は、髪を伸ばしている理由を国家試験の願掛けだと周囲に伝えていたのは間違いない。
なんとなく伸ばし始めたところにちょうど見つけた都合のいい理由。
そのおかげで、2年という期間、私は耐えに耐えて髪の毛を伸ばし続けた。
ショートヘアはいつの間にかロングヘアに。
何も持たない3年目は資格を取得し世界が広がった5年目に。
あっという間な2年ではあったが、とても変化の大きい2年だった。
普段、思い入れに左右されず物を捨てることができる私ではあるが、試験が終わった次の日に美容室に行った時、髪の毛を切ることができなかった。
タイミングではなかった、ただそれだけのことだったように思う。
そして約3ヶ月、髪は特に理由もなく伸びていった。
文字通り、なんとなく伸びていった。おかげでこの冬、首元は暖かかった。
そして一昨日、それは突然やってきた。
「この服絶対着たいのに、この髪じゃ似合わない。切ろう」
きっかけはこれだが、細々とした理由の積み重ねがあった末の出来事だったように思う。
「来ちゃいました」
少しだけ申し訳ない気持ちと共にドアを開けると笑うお姉さんが一言いう。
「任せて、最高に可愛くするから」
ひと束、またひと束と落ちていく髪の毛に合わせて昂る心。
「待って、最高に可愛いかもしれないです」
「ショートにするならこれが似合うと思ってたのよ、ずっと笑」
胸までのロングヘアは顎ラインに揃えたショートボブへと様変わりした。
後悔も未練もない、最高の断髪式だった。
ゴールドリングファスナー付きのオフホワイトのショート丈ハーフジッパー。
Leeのワンウォッシュジーパン。
細身のチェーンネックレスと小ぶりなリング型のイヤリング。
お姉さんに教えていただいたやり方でアイロンを通したショートボブ。
帰りに購入した服と髪を身に纏い最高の今日を過ごす。
おこがましいかもしれないが、人生史上最高の自分と言ってもいいかもしれない。
自然と伸びる背筋、春らしい陽気に合わせて思わず曲も口ずさんでしまう。
衝動的な夜中から衝撃的な変身を遂げた2025年の春。
最高の自分は突然に。
小田和正さんの有名なあの曲が形を変えて指先から溢れ出す。
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