重い荷物が消え、羽が生えた。彼氏から卒業したら、人生最高です

27歳の私はもやがかかったような日々を過ごしていた。
2年半付き合っている彼氏とは喧嘩ばかりで、怒鳴り合い、胸ぐらをつかみ合い、何度も別れ話をしたのに、別れられなかった。「もう別れなよ」心の中の自分がそう言っているのに、なかなか別れられなかった理由が今はわかる。
「自分を必要としてくれる人がいなくなる恐怖心」だ。
仕事はやりがいがなく、誰の役に立っているのか分からない毎日の連続で、私は完全に自分の存在意義を見失っていた。「生きているだけで価値がある」。それはそうなんだけど、そういう綺麗事みたいな言葉が自分には該当しない気がしていて。
そんな日々の中で、彼が私の存在意義だった。地獄のような喧嘩をしても「彼は私と別れていない」という事実が、私の危うい存在意義を首の皮一枚で繋いでいた。
ある日、毎度のごとく大喧嘩をして別れ話になって、どうやらいつもと違う流れになった。いつもより具体性がある。計画していた旅行のキャンセル料の話とか、部屋にある荷物の話とか……。頭の中でRAD WIMPSの『05410−(ん)』が流れる。
別れた。2日間死ぬほど泣いた。満員電車に揺られながら、町中華のチャーハンを食べながら、カラオケでサザンを歌いながら泣いた。3日目、ケロッと立ち直った。
存在意義を失った私は“ゼロ”になった。失うものがなくなって、重い荷物がどこかへ消えて、羽が生えたような気分だった。これまで彼に割いていた時間もお金も思考も、全部全部自由だ。
前から興味があったサーフィンを始めた。住んでいる町をもっと知りたくて原付バイクを買った。町の小さな立ち飲み屋でバイトを始めた。もともと好きだった1人旅を再開した。やりがいのない仕事ばかりの会社を辞めた。
彼から卒業して約1年半が経った今、私はフリーランスのフォトライターとして活動している。
あの時買った原付に乗って神奈川から北海道まで旅に出たり、それを旅行記として発信してたりしている。
あの時バイトし始めた立ち飲み屋で仲良くなった同世代の子がデザイナーで、今度一緒に仕事をすることになった。
あの時始めたサーフィンがきっかけで、心から好きだと思える人に出会った。
当時頭がかち割れるほど悩んでいた存在意義のことは、もうあまり考えなくなった。
それよりも、目の前にやりたいことワクワクすることが広がっていて、それを考えるので精一杯だ。
存在意義なんて、最初から存在しないのかもしれない。それは彼と別れてゼロになって自由気ままに生きるようになって思えたこと。存在意義なんてないから、あとは自由に踊ればいい。心ときめく方へ進んでゆけばいい。常識も世間体も思い込みも全部手放して、送りたい人生を送ればいい。今は心からそう思う。
彼氏から卒業しました。
人生は、最高です。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。