「やばいやばい、また赤点だ!」

高校時代、私はとにかく勉強ができなかった。小学生までは勉強が好きだったが、勢いに任せて入った中高一貫校では、授業で先生が何を言っているか分からず、勉強がどんどん嫌いになった。

◎          ◎

模試の順位が高ければ高いほど偉い。暗黙の了解でそんな雰囲気があり、低かったからと言っていじめられるということはなかったが、「はなちゃん、その成績でよくうちの学校入れたよね」と友達に呆れられながら言われた。そして、成績優秀や東大志望の同級生は「かっこいい!」と言われ、崇められていた。
「東大に行く人はすごい。幸せな人生を送れるんだろうな…」と漠然と思いながら、6年間を過ごした。

辛い受験勉強を乗り越え、都内の女子大に入学した私は、迷わず東大のサークルに入った。そこで一目惚れした先輩に猛アタック。無事に付き合えた私は大学の友達に「私の彼氏イケメンなの!しかも東大なの」とひたすら惚気まくっていた。

「えぇ~東大生と付き合うなんてすごいね!」と感心されるのが気持ちよかった。
彼氏の横を歩いているときも「この人東大生です!」と通行人に叫びたくなるくらい、優越感に浸っていた。
しかし付き合って3年目のある日、私から別れを告げてしまった。理由は、別の東大生を好きになってしまったからだ。

◎          ◎

その後、別の東大生とも付き合ったが別れ、慶應出身の同僚とも良い感じになったがうまくいかなかった。「MARCHかー。でも出世しそう!」と思って付き合った彼氏に「結婚したい」と言われたが、楽しい結婚生活を思い浮かべることができず、別れた。気づけばもうすぐ30歳。そんなときに6歳下の同僚に告白された。

「えっ?音大に通ってたの?しかも奨学金返済中なの…?」

奨学金を借りて大学に行くなんて、今までの男友達にも彼氏にもいないタイプだった。しかも私立の音楽大学で、偏差値も50以下だ。

将来的に幸せになれるのか、不安でしかない。でもカッコよくて、一緒にいてとても楽しい。くて、つい彼からの告白に頷いてしまった。歳も私よりずっと下だし、そのうち若い女に目移りしそうだ。それまで一緒にいていいかな。

将来を考えず、今を楽しむのは気楽で良かった。彼は将来の話をしたがったけど、私は真剣に聞かなかった。そうして付き合って1年がたった頃、彼に別れを告げられた。 

失恋は初めてではないのに、心にぽっかり穴があいた。

「学歴もお金もないし、将来性はなさそう。彼は若いし、いつかは別れるだろう」そう思っていたはずなのに、毎日涙が止まらなかった。

◎          ◎

ふられるのは当然で、「今月お金がピンチで…」と外食を渋る彼に対して「どうしてそんなにお金がないの?」と怒り、彼を傷つけるようなことばかり言っていた。「奨学金返済中だもんね」と馬鹿にしたような口調で言ったこともあったけど、彼は親に反対されても音大に行きたくて、全て自分のお金で奨学金を返済している人だった。

親に学費を出してもらった私よりも、ずっと立派なのに、私はなんてことを言ってしまったんだろう…。

取り返しのつかないことをしてしまった。私は彼のことをこんなにも好きだったのに。
31歳にして初めて、「好き」が分かったような気がした。今までの彼氏は「学歴」で好きになっていた。だから長く続かなかったのだろう。

「東大に行けば幸せな人生を送れる」と昔から思っていて、自分は行けなかったから、学歴の良い彼氏と付き合えば、幸せな人生を送れるんだろうと心のどこかで思っていた。
でも、6歳下の彼氏と付き合って、どの彼氏と付き合っていたときよりも心から笑っていたし、たくさんの幸せをもらっていた。

◎          ◎

学歴なんて関係ない。好きな人と一緒に過ごすことがどれだけ幸せなことか。
「学歴」という色メガネを外し、3か月がたった頃、6歳下の彼とひょんなことから再会した。自分が学歴にとらわれていたこと、付き合っていたとき彼にひどいことを言ってしまったことを心から謝り、「大好きです」とストレートに気持ちを伝えた。

そして何度かデートを重ね、別れて4か月後「もう一度付き合おう」と彼に告げられた。

「えーっ、復縁なんて幸せになれないよ」

6歳下の彼氏と復縁したことを話したら、友達に言われた。
「それは分からないよ」と私は微笑んで答える。

確かに、友達がそう思う気持ちも分かる。復縁って愛が不安定に見えるだろうし、彼氏は6歳も年下。貯金額は私の方が多いし、学歴も私の方が上ではある。
でも「高学歴の彼氏じゃなければ幸せになれない」なんてことは、決してないと今までの恋愛で気づいた。だから「復縁は幸せになれない」なんてことも決してないはずだ。
来週から彼氏との同棲生活が始まる。

私は彼氏と一緒にたくさんの幸せを作っていく。