私が卒業したこと。それは「仕事ができない」という言葉の呪縛である。

私は一年程前にとある和菓子の専門店で働いていた。和菓子といえば想像がつくかと思うが、技術が必要である。何とか必死に出来るようになろうと努力をしていた。

けれど実際にかけられる声は罵声ばかり。遅いと怒鳴られ火力を上げられて、スピードが間に合わず全てロスになってしまった時は心が折れるなんてものではなかった。他にも、休み希望は当たり前のように通らない。気に障ることがあれば県外へ応援に行かせると言われ実際に翌週に行かされた。

仕事のことだけにとどまらず、私の顔について揶揄することもあった。

そんな職場で、よく言われた言葉。「お前は仕事ができない」。

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それでもめげずに続けていたが限界だったのだと思う。ご飯を食べることが出来なくなり、時には水だって飲めない時もあった。

そんな時に運よく年始になり、母の弟と話をした。その時にはじめて言われたのだ。私のされている行為がパワハラにあたると。その時はまだ信じることが出来なかった。

ただ、体の不調もあり出勤が難しくなってきた為退職した。そこから回復するまでに数か月かかった。

そしてその後、ご縁あって私は二週間ほど飲食店のバイトをすることになった。その時には口癖ができていた。「仕事できなくてすみません」という口癖が。

バイトは忙しい時が多かったものの、楽しかった。「仕事できるねえ」と褒めてもらえることもあって、もっと頑張ろうと思えた。

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そして、残り一週間という頃に言われだしたのは「正式にバイトになるか」というものだった。こんなに楽しく仕事をしたことがないから続けたいと思う反面、私は仕事が出来ないのだから迷惑をかけるくらいならここでもう辞めたほうがいいんじゃないかとも思った。

しかし、「いやでも二週間って言ってたので」と笑いながらごまかす私に何度も何度も聞いてくれた。

最後に聞かれた時、私はなんとか「正式にバイトになりたいです」と言うことが出来た。それでもまだ呪縛が解けたわけではない。何度か褒めてもらえることはあったが、その度に「仕事できないです」と笑いながらではあったが否定していた。

何度目かの時に言われた。「自分をそんなに低く見積もる必要はない」と。その時にようやく考えはじめたのだ。私は仕事ができないのか否か。「ありがとうございます」と返せるようになってからも分からなかった。

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そして一年が経った最近。偶然仲が良かった別の支店で働いている同期と話す機会があった。ふと、気になって聞いてみた。「あの人ってどうなったの?」「クビだって。パワハラしたって」それを聞いて、やっと。私はやっと呪縛から逃れることができた。

一年間、自分のことを卑下していた。「仕事ができない」と、思いたくもないのに口にしていた。それが、否と自分で言えるようになった。私は何も間違ってなどなかった。ただひたすらに頑張っていた。そんな過去の自分も肯定できるようになった。

パワハラから逃れることができても、それがその後にもこんなにも大きな傷跡を作ってしまうとは思わなかった。自分で自分のことを卑下して、自分のことを傷つけてしまうことがあるとさえ。
呪縛から卒業できた今、私は大好きな職場で人としての成長を目指している。