付き合っていない男性と寝るのは、いけないことだろうか。私はいけないことだとは思わない。いや、厳密には少し違う。表向きの解答としては「いけないことだ」と答える。多くの人がそうだろう。「いけないこと」という共通認識があってこそ、男女の過ちは楽しい。浮気は絶対に駄目だが、お互い特定の相手がいなければ、何も問題はないと思う。

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そんな私のワンナイトエピソードは、同期二人との飲み会から始まる。
同期の男性二人が飲んでいるところに呼ばれ、近くの居酒屋に向かった。ひとしきり盛り上がって、ふと時計を見ると、もう終電の時間を過ぎていた。

一人は反対方向だったので、終電で帰っていった。
さて、残された男女二人。私は残された彼とカラオケに入った。
彼との話題の中心は、私の初体験についてだった。初体験の相手と別れたばかりだったのだ。
今までの体験も話し、いつしか"そういう話"になっていた。だんだん二人の距離は近くなっていた。

"そういうこと"を、ホテルや家以外のどこでしたことがあるか、どこでできるか、という話になった。

「俺カラオケでしたことあるよ」

私が彼を、はっきりと"そういう目"で見たのは、その時だった。

「カラオケでできる?」
「したことはないけど、まぁできるかな」

お互い核心には触れない。あくまで友達同士の会話を装って、でもどちらかがほんの少し踏み間違えたら、すぐに"そういうこと"になる。そんな危うい時間は、ゆっくり、ゆっくりと過ぎた。同期だから、友達だから駄目だという考えは、不思議となかった。後で気まずくなるかもとか、そんなことは考えなかった。いつ踏み間違えてみようか、どうやって踏み間違えてみようか。そんなことを考えながらの会話はあまりにもスリリングで、刺激的だった。

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でも私は間違えなかった。下着があまりにもださかったのだ。
上下バラバラどころではない。詳細はここに書くのも憚られるほど、ださかった。
そのことを思い出してから、私はカシスソーダを喉に流し込み、マイクを片手に歌い出した。

それでも、いつ押し倒されてもいい、くらいの気持ちは持っていた。彼は何度もトイレに行き、その度なかなか帰ってこなかった。私は沢山歌った。朝まで歌った。

カラオケを出て駅まで向かう道中も、いつになく二人の距離は近かった。いつ手が触れてもおかしくない距離だった。だけど手は触れず、その距離を保ったまま歩いた。
あの日のドキドキが忘れられず、連絡を取っていた時期もあった。しかし次第に、あの日のドキドキは恋愛感情ではなく、その時にただ盛り上がっただけだと気づいた。

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ぱっと盛り上がって終わる一夜も、若いうち、お互い相手がいないうちしかできない。だからほんの少し、あの日を後悔している。
でも私たちはそれでよかった、そんな気もする。交わりそうになって交わらない、そしてこれからも交わることはない。そんな距離感で私たちは今日もそれぞれの人生を歩んでいる。