私は北海道の札幌市で暮らしている。
友達と遊んだり、買い物するのは大体中心部の大通・さっぽろ駅あたりのエリアだ。店が多いし、なによりこの辺は地下歩道がある。雨や雪が降っていても、気にせず歩くことが出来るのだ。

先日も雨が降っていたので、夕方頃、地下街を1人で歩いていた。すると向かいから、見覚えのある顔の男性が歩いてきた。
少し前、友人とよくお笑いライブを見に行っていた時期があった。毎回同じ事務所のライブに行っていたので、出てくるのは大体同じ芸人さん達だった。そのなかで、面白いな、好きだな、と思っていたコンビのツッコミの人が、目の前のその人だった。つまり、この見覚えは完全に一方的なものである。
その芸人さんは、確か私と同じ20代後半くらいの年齢だった。ツインテールの可愛らしい女の子と手を繋いで歩いていた。

それを見たとき、この人にもパートナーとの人生というものがあるのだ……と思った。
決して誤解しないでもらいたいのだが、私はいわゆる「ワーキャーファン」ではない。そもそも数回ライブに足を運んだのと何度かネットラジオを聴いた程度なので、ファンと名乗れるかすら怪しい。
ではこの時に抱いた感情は何か、というと、一言で説明するのは難しい。出来る限り簡潔にまとめるとするならば「この人もこのパターンの恋愛を生み出す側だったのか……!」という感じだろうか。

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他人様の恋愛をパターンとして捉える、というのも大変失礼な話なのだけれど、そう考えてしまう程度には、私はこのパターンの当事者だった。詳細に言うと、ラッパーと3年半交際していた。大学で芸術系の学部に所属していたせいか、周囲でもそういう話が多かった。

このパターンの恋愛の難しさというのは、簡単に表現出来るものではない。芸人とかバンドマンとかそういう肩書きの人って、大体人柄が良いのだ。付き合ったとしたら、きっとこちらのだらしなさには寛容だし、その上で好意をしっかり示してくれる。だけどとにかく収入が少なかったり、加えて自我が強すぎたりして、未来が見えない。でも、この人にしか無いんじゃないか、と思わせる何かしらの魅力を持っているから、別れられない。

お笑いライブでの彼を見ていて思ったのは、「この人は一般社会でも生きていけそうなタイプだ」ということだ。出演していた芸人さん達の中には、普通に会社勤めするのには向いていなさそうな人も何人かいた。しかし、この人はそうじゃなかった。居酒屋だろうが引越し屋だろうが、どんな職場でもそれなりの働きをしそうなタイプに見えた。

だから、心配には及ばないのかもしれない。2人の間で「何歳までに売れなかったら~」という話し合いがちゃんと出来ているかもしれないし、実は彼はお笑い以外で十分な副収入を得られているのかもしれないし、彼女がそういうことを全く気にしない性格かもしれないし。そもそも2人が交際関係にあるのかどうかも分からない。

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一瞬手を繋いで歩いているのを見かけただけなのに、随分壮大な想像をしてしまった。何にせよ、他人が気にすることではない。ただ、過去の自分に重なったことと、彼の自分との年齢の近さが、私に勝手な杞憂を抱かせたのだった。