「名前のない関係」は「彼女ができた」であっさり終わった

少し前に、お別れした人がいる。
久しぶりの恋に、ちょっぴり浮かれていた。夜寝る前に、「この話を聞いてほしいな」と思ってみたり、リップの色を変えたのも数年ぶりで、いつもは履かない、スカートを履いてみたりした。
でも、付き合うことはできなかった。私は「好き」と伝えていたし、彼も「好きだ」と言ってくれた。それでも付き合うことができなかったのは、私が結婚していたから。夫とは別居中だったが、まだ籍を抜いていなかった私は、この関係を曖昧にし続けた。
「好き」と伝え合うだけなんて、中学生みたいだ。
でも「名前のついた関係」がなくてもいいくらい、今が楽しくて、浮かれていた。近場でデートはできなかったけど、遠くまでドライブをして2人きりになれる場所まで行った。
でも、ある日、彼から「彼女ができた」と言われて、あっさり終わった。私より年下の彼よりさらに年下の、可愛らしい子で。彼のスマホには、距離の近い2人のプリクラが貼ってあった。
「ごめんね」と言われた。「何に謝ってんの(笑)」と言ったけど、何に謝ってるのかはなんとなくわかってた。きっとそれは、「待てなくて、ごめんね」だし、「それでも好きでい続けられなくて、ごめんね」だったんだと思う。
曖昧にし続けた自分が悪いことは十分わかっていたから、涙を堪えて「よかったね」と言ってみたりした。あの時の私は、うまく笑えていたのかな。
それからもう2ヶ月が経とうとしている。「ごめんね」と言われたあの日から、彼とは会っていない。元々付き合ってたわけでもないし、と自分に言い聞かせて、あえて連絡先は消さなかったし、きっとこの狭い田舎の中だから、会おうと思えば簡単に会える。でも、もう会うことはないだろう。お互いのために、会ってはいけないんだろう。
でも、彼にもう一度会えるなら。
今度は、近くの公園まで、車じゃなくて外を一緒に歩きたい。こんな狭い田舎で、気にせず一緒に居酒屋に行ってみたい。それでちょっと酔っ払って、人前で甘えてみたりしたい。
「大人になって、バカみたいだね」って言いながら、お揃いのものを身に付けたい。それを見せびらかすように、私だって歳に似合わないプリクラを撮ってみたい。
「ずっと一緒にいてね」って、一回だけでもいいから言ってみたい。
「もう一度会えるなら」を考えているということは、「もう会えない」をわかっているということだ。
それでも、今日も彼を思い出しながら思う。
もう一度、会えるなら。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。