眠れない私と夜の散歩。なんでもない話で大笑いしたこの日を忘れない

普通に生きていたある日、家から出られなくなった。
何かしようと思うと吐き気がして、頭痛がして、眠れなくなった。
原因は仕事中に大きな事故に遭ったことに加えて、自分にとって特大のトラブルが数本立てで同時リリースされたことらしかった。病院にかかることをすすめられ、あれよあれよという間に本当に休職することになってしまった。
普段から働きたくないとは言っていたけど、本当に働けなくなった自分が情けなくて今後どうしたらいいのかわからず泣いた。何度もトイレに駆け込み、吐いた。苦しくて、みじめで、怖かった。
会社の上司も病院の先生も全員口をそろえて「休め」と言ってきたが、いざ休めと言われてもどうしていいのかわからなかった。
基本休日は誰かと会って酒を飲んで過ごしてきたから、人と会う元気がない今、することがなかった。
しかも唐突に気持ち悪くなって吐いてしまうため、気分転換に遠出することもできなかった。
夜には嘘のように元気になって逆に寝られず、眠りに落ちたかと思えば嫌だったことがフラッシュバックして目が覚める。
それでも夜寝るために昼間はなんとか起きて、夜は酒をたくさん飲んで寝落ちするしかなかった。
あんなに毎朝ずっと一緒にいたかったベッドともちょっと気まずくなった。
寝られそうなすべてを試してもベッドに入った瞬間目がさえてしまう。
眠れない日々がこんなにつらいと思わなかった。
夜に一人取り残されると、嫌だったこと、働けないこと、頑張れないこと、さぼっていること、会社に不満があること、収入がなくなること、将来が見えないこと、すべてがわたしを責めてくる。
じゃあどうしたらよかったの、どうしてほしかったの、と唱える。
自分が感じた気持ちはすべて、言い換えると自分が悪くて、自分が感じていいことではないように思えた。
眠れないのに、わたしの一日は終わっていないのに、勝手に空は明るくなっていって、次の日として朝が来る。
社会でちゃんと働いている人たちが、わたしの家の前を燃えるゴミの袋を持って颯爽と歩いていく。
朝に会いたくなくて、布団を頭からかぶって泣いた。
そんな中、絶対に行きたかった同期の結婚式にギリギリ参列した。
仲のいい同期が勢ぞろいする日で、とても楽しみにしていた。
人の結婚を祝う場だというのに、本当に申し訳なかったが酔った勢いで休職していることを打ち明けてしまった。
みんな本当に驚きつつ、また心配してくれた。無理に励まさず話を聞いてくれた。
それがまた嬉しくも情けなくもあって号泣して迷惑をかけても、何も言わず一緒にいてくれた。
帰宅してからは久々にパニックを起こして大声で叫んで泣いた。
この世に生まれて泣いたときってこんな感じだったのだろうか?と思った。
次の日、自己嫌悪で寝込んでいると同期から「散歩に行こう、そのあと焼肉食べよう」と連絡をもらった。
わたしの体を動かして寝かしつける作戦だった。やっぱり赤ちゃんじゃん。またちょっと泣けた。
夜が来てから歩く約束をした。なんでもない話で大笑いしながら近くの公園の周りを1時間くらい歩いた。
おいしい焼肉をたくさん七輪で焼いて、オイキムチを頼んだはずが間違って出てきたカクテキをつまみ、締めに冷麺まで食べてやった。
じゃ、また暇なときみんなで集まろう、とさらっと解散して帰宅した。
一人になって、一息ついて、今日のことを振り返った。
この一連の流れはわたしが今一番求めていた、誰かにしてほしかったことのように思った。
嬉しいやら感謝やら照れやら、ごちゃまぜの気持ちになって、2滴くらいの大人の涙が流れた。よく考えたら、わたし赤ちゃんじゃないし。
今日は絶対に寝れるな、と思いながらベッドに入った。
結果やっぱり寝付けず、寝れたと思ったら1時間に1回目が覚めて、また朝が来ていた。
結局寝れないんかい、と思って、ふふっと笑ってしまった。
いつ元の日常に戻れるか正直まだわからない。
でもきっとこの日のことを、この先つらいときに思い出すと思う。
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