おセンチになるチャンスを今か今かと待ち構えるメンタルが動き出す夜

私の生活は、規則正しい。朝6時半に起きて、夜10時半には眠りにつく。8時間睡眠マスト。大学生は昼夜逆転が当たり前だとよく聞く。それが本当だとすると、私はかなり珍しい人種ということになる。そして、もう既にお気づきの通り、私は寝るのがとても早い。おそらく、ベッドに入ってから5分もすれば、夢の中にいるのではないだろうか。寝てしまうので、測ることは出来ないけれど。
そんな私でも、ごく稀に、眠れない夜がある。特に理由は無い。自律神経の乱れかなにかだろう。しかし、そうなると大変だ。なぜか。夜はセンチメンタルになる、とはこれまたよく聞くけれど、私は普段、センチメンタルになる間もなく眠りについている。つまり、私のメンタルはおセンチになるチャンスを今か今かと待ち構えているのだ。チャンスが訪れると、どうしようもなくへこんでしまう。
特にへこむ題材は「私に彼氏がいないこと」。普段は、彼氏なんて居なくても人生楽しいし、という心持ちで生きている。しかし、私の奥底に眠るヒロインは、運命の人を待っているらしい。今のところ、現れる気配はない。どうしよう。このまま孤独死したらどうしよう。ヒロインは悩む。「彼氏なんて自然にできるよ」「恋愛はタイミングだから」と言われ続け、20年が経った。悠長なことは言ってられない。
深夜2時。静まり返る部屋、抱き枕もない簡素なベッド。そんな孤独に耐えられなくなった私がよく出る行動がある。
「マッチングアプリを入れる」ことだ。タイミングがないなら、自分で掴みに行くしかない。とお決まりのセリフを脳内で唱えながら、私はアプリをインストールした。
この女はいつも同じことを繰り返しているので、メモ機能に完璧なプロフィールが用意されている。あ、身分証明書がない。親を起こさないよう、そろりそろりと階段をおり、パスポートゲット。また、そろりそろりと自室に戻り、パシャリ。プロフィールを張りつけ、適当に写真を見繕う。これで完璧だ。どんな人がいるか品定めをし、手当たり次第にいいねを送った。
すると、1人の男性からいいねが返ってきた。素直に嬉しいものだ。トーク画面を開くと「顔がタイプです」の文。あれ、チャラいかもしれない。そう、私は根っからの少女漫画脳なので、お遊びお断りのかた子である。でも、もしかしたら、勇気を出して送ってくれたのかもしれないし、と思い直す。
「ありがとうございます笑 私は趣味が合いそうだと思ったので、いいねしました笑」と返した。
1時間待っても、返信は来なかった。私は5分程度で返したから、絶対に見ているはずなのに。ここまでくればお察しである。ただ、明日の朝には返事が返ってくるかもしれない。
とりあえず、寝る体勢に入った。
しかし、気になる。モヤモヤする。そもそも、なんで私がここまで悶々と考え、この男の返信を待ってやる道理があるのか。そう思うと、次は無性に腹が立ってきた。やめだ、やめ。アプリをアンインストールするだけでは、アカウントは残ることを私は知っている。ご丁寧に退会手続きを済ませ、アプリを消した。
ホーム画面に、さっきまであったピンク色はない。なんとも言えぬ爽快感。ここまでで、何も進展していないのは自明のことである。しかし、もうそんなことはどうだっていいのだ。
とりあえず、二度とアプリなんて入れてやるもんかと心に誓う。日々真面目に生きていれば、きっと来るべき時に出会えるはずだと、そう信じ、目を閉じた。
結局、今も私のスマホには、プロフィールが記されたメモが残っている。
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