もう一度会えるなら、学生の時にお世話になったホームステイ先の御夫婦にお会いしたい。

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大学生のとき、学校のプログラムの一貫として、希望者だけで行う海外研修があった。それまで海外に行ったことがなかった私は、この機会を使って海外に行ってみることにした。学校の研修なので、スケジュールにあまり自由な時間はないけれど、一人で何もわからず海外に行くよりは安全でいいと思った。

これまで海外に行かなかったのは、興味があまりなかったこともあるが、一番は怖かったからである。スリやぼったくりなど言葉が通じないなかで犯罪に巻き込まれることを過度に懸念していた私。日本が安全な国だと言われるとさらに、そこから出るのはかなりチャレンジングなことだと感じていた。

少しずつ興味は湧いていたものの、海外旅行に行きたくなるわけではなく、安全が担保されている機会があれば行こうと思うくらいだった。そんなときに訪れた海外研修だったので、即座に立候補をした。

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とはいえ私は極度の人見知り。海外は言葉も通じないので、自己表現が乏しかった。向こうでの生活は、ホームステイで過ごす。日中は研修先を周り、夕方になるとホームステイ先の家族が迎えに来るという仕組みだ。朝も集合場所まで送っていってくれた。私は4人受け入れてくれた夫婦のもとにお世話になることになり、帰国までの1週間を過ごした。

最初、自己紹介をして自分の名前を名乗ったのはいいが、それから話が続けられない。英語をまともに話したことがなく、残り3人も同じ研修に参加している人がいれば、甘えが出てしまう。私が話さなくても会話が進むからだ。

たまに振られる話も、苦笑いでスルーして伝わっていないような雰囲気を醸して終わった。ホストファミリーである夫婦からすれば、とても話しにくく接しにくい学生だっただろう。それでも果敢にコミュニケーションを取ろうとしてくれた。

ホームステイが中盤にかかったころ、ホストファミリーから質問を投げられた。「日本の映画俳優と政治家はどちらが稼いでるの?」という質問だ。日本ではあまり比較対象にはならないので驚いたが、どちらも同じくらいだと答えた。

私がホストファミリーの夫婦とちゃんと会話のキャッチボールをしたのは、これが最初で最後だったと記憶している。後は人見知りをしてまともに話さなかった。ありがとうやOKのような簡単な会話だけをしてやり過ごしていた。

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今になって思うのは、もっと会話をすれば良かったということ。私が話そうとすればちゃんと耳を傾けて聞いてくれるご夫婦であったことは間違いない。他愛もない話や将来の夢など、何でもオープンに話せる環境を作ってくれていたのだから、拙い英語でも話してみれば良かったと思う。

もう一度会えたなら、学生のときから今までを少しづつ話してみたい。当時私にどのような印象を持ってくれていたのかも気になるので、聞いてみたい。初めての海外にあっけを取られて終えてしまった研修期間であり、ホームステイ期間だったが、あのときはもっと攻めても良かったと反省できるくらいに何もしなかった。

私が何も話さなかったにも関わらず、色んな所へ連れて行ってくれて、経験をさせてくれて、関わろうとしてくれた二人にお礼も言わなければいけない。もしかすると、学生の時よりも英語力は落ちている可能性がある。けれど、話してみようという勇気は今のほうがあるだろう。今はツールがたくさんあるので、あの手この手を使いながら伝えられるはずだ。

チャンスだと思って飛び込むように参加した海外研修だからこそ、怖気づいてやりきれなかったことへの後悔はある。ここまで守られて、日本語でもある程度は通じる環境を整えて参加できた海外研修での経験は面白く、財産になっている。過ごした期間、経験したこと、これまでの私について、受け入れてくれたホストファミリーであるご夫婦に、もう一度会って話したい。