成し遂げて来た人の重みに心が奮い立つ。垣間見えた新しい世界への扉

例えるならば太平洋に浮かぶ一隻の船。
一度巻き込まれれば、あっという間に飲み込まれるような。
世界から見た人間はあまりにも弱くて、自分を保つというのは並大抵ではない。
世界が白といえば黒いものは白に、黒といえば白に。
太刀打ちできそうもない世界の波に抗いながら、自分を律しながら、それでも自分を信じて前に進む。
黒いものは黒に、白いものは白に。
次の扉は見えた。あとは鍵をこの手に。
きっかけは些細で、突然で、過ぎ去った後に初めてその大きさに気づく。
とはいえ、今回はあまりにも大きくて逆に全貌が見えないという意味では妙にリアル感がなく、人生の変化になり得るという実感すら湧いてこなかった。
「懇談会にぜひご参加いただければと思います」
特に珍しくもないメール。
「〇〇も楽しみにしております」
一生に一度もらえるか、そんなメール。
突然流れてきたメールに書かれた懇談会、相手はこの大きな会社のトップだった。
招待をいただいたのは私を含んで六人、一部の顔馴染みを除き会ったことも無い方々だったが、事前にチャットでやり取りをしていたため当日会った時も変に緊張はしなかった。
とはいえ、待機室の空気は自然と硬くなっていく。
そんな空気を感じつつ、私はといえば楽しみだなあと呑気に構えていた。
変化する日常、しかしどこか物足りなくて、飽きていて。
一分一秒が惜しい中で時間を垂れ流しながら捨てているような日々。
人生の指針となるような、私を形成する断片のような。
そんな何かを掴めたらいいな、カケラだけでも掴めたらいいな。
モザイクがかかった状態の大層なものが少しだけクリアになるような期待を持って、私は廊下を歩いて行った。
「はじめまして」
笑顔を見た瞬間、反射的に伸びる背筋。
硬かった空気が柔らかく、しかしピンと張ったまま広がっていく。
たかが一時間。
しかし間違いなくその一時間は私の人生観を変えた一時間だったと言える。
「大義があれば人は動く」
当たり前のようでこの社会で実行、維持することが難しいそれを成し遂げてきたその人だからこその重みと響きが心を奮い立たせる。
この人を筆頭に世界をより良くしたい、そう思わされたのは生まれて初めてだった。
「なんか、すごかったよね」
「本当にね」
「なんか頑張ろうって思えた」
「私も」
懇談会終了後、自然に漏れ出た語彙力のかけらもない余韻。
各々感じ取ったものは違うかもしれないが、活力になったことは間違いない。
私自身も表現するにはあまりにも稚拙な言葉しか思い浮かばず、しかし間違いなく言えることはといえば。
「頑張ろう」
その一言だった。
たかが一時間。されど一時間。
私にとってその一時間は金属のようなものだ。
垣間見えた新しい世界への扉と対になる鍵に変化する金属と言える。
きっかけというのは過ぎ去った後に初めてその大きさに気づく。
狭い。今まで違和感のなかった自分の世界がやけに小さく見える。
人も場所も、物理的にも精神的にも、何もかもだ。
昨日までそこにいた人たちにもやがかかって、世界にもやがかかっている。
そのくらい、一時間を通して私の世界が、視えるものが変わってしまった。
息苦しい。誰も理解をしてくれない。
急激な孤独が腕を、足を、心臓を貫いていく。
しかし今は痛みすら自分を保つ一つの刺激となる。
人は忘れ、順応し、いつの間にか慣れる。
世界から見た人間はあまりにも弱くて、自分を保つというのは並大抵ではない。
太刀打ちできそうもない世界の波に抗いながら、自分を律しながら、それでも自分を信じて前に進む。
どこに行き着くかもわからない、しかし確実に言えることは今の場所にとどまり続けることはないということだ。
次の扉は見えた。あとは鍵をこの手に。
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