私にとって会社とは、元気だった頃の象徴だ。

私は、新卒でアパレル企業に入社したが、持病の双極性障害により、二度の休職を経て、約二年半で退職した。

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入社したての頃は、体が元気だったこともあり、とても楽しい会社生活を送っていた。
初めての部署がとても仲の良い所だったため、飲み会はもちろん行く派。楽しい飲み会しか知らない時期が長かった。ワン缶と言って、退勤後に、コンビニで一缶だけ買って、路地裏でおしゃべりしながら飲んだりもした。また、私の誕生日には、サプライズでケーキを用意してくれて、それも路地裏で食べた。上司から「一緒にディズニーに行かない?」と誘われたのは一年目の五月。アルバイトで三月から配属されていたから、一緒に働き始めて二ヶ月目。仕事の頑張りを評価してもらえていると感じ、嬉しかった。

プライベートな話もそこそこした。根明の女性のパートさんに、「橘さんって、彼氏とかいますか?」と直球で聞かれた時はどぎまぎした。パートさんと、女性の上司と三人で話している時に、私が「合コンに行ったことがない」と言うと、二人とも「えーーー!!勿体ない!」と大きな声を出したのはびっくりした。

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私の会社では、お客さんがいない間は、スタッフ間でおしゃべりをしてコミュニケーションを取るように言われた。そのため、一緒に働いているスタッフの好きな食べ物、趣味、好きな映画のジャンルはもちろん知っていたし、恋愛絡みも仲良くなると向こうから教えてくれた。

結果として転職というか、退職することになったが、在籍時は転職は全く考えていなかった。
それは、私は大学生時代に、うんと考えて、前職を第一志望にして入社したからだ。私は前職でしか働けない、と思っていたし、どの会社に行っても、多少の嫌な事はあって、今いる会社が私にとっては最小値で済んでいる、と確信していた。

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だが、現在フリーランスとして働いてみると、会社の好きな所や、苦手な所が見えてくるようになった。
好きな所は、家族以外にコミュニティを持つことができることだ。趣味の場とも違う、少し緊張感があって、それゆえに悩みを相談できたり、心から笑い合えたり。フリーランスになると、人間関係の嫌な部分に触れることはないが、楽しい部分に触れることもない。

今振り返ってみると、苦手な部分は沢山ある。決められた日・時間に出社しなければならないこと、ずっと立っていなければならないこと、お客さんの前ではニコニコ・ハキハキしなければならないこと、人事異動に対応しなければならないこと、苦手なスタッフとも一緒にやっていかなければならないこと等。

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会社に勤めれば、安定したお給料をいただける。だが、私は会社に勤める体力が無かった。現在は、フリーランスのwebライターとして活動しているが、改めて会社生活を振り返ると、感じたものがあった。

それは、多少の嫌なことがあっても、ここがストレスの最小値だ、と思って働いていたことだ。この気持ちを思い出せただけでも、このエッセイを書いた意義があったと感じる。

というのも、前職を退職してからは、約一年半の間、療養と転職活動をしている。立っていることが苦痛だったため、簿記の検定を取得したり、エッセイストを目指したり、ブログをやってみたり、塾の模試添削の仕事に応募したりと、流浪していた。

精神科の主治医の「むりしない」という言葉のもとに、ストレス耐えることをしなくなっていた自分に気がついた。
今は、自分に合った仕事をゆっくり見つける方向で良いとは思うが、「ここがストレスの最小値」ということをしかと認識して、日々を過ごしていきたい。