第2の人生をスタートさせたこの町が明けない夜はないと教えてくれた

家賃更新のお知らせが届いた。そういえば、もうあれから6年も経ったのか。あっという間だった6年間を思い出す。私はきっと、この先もこの町に住むのだろう。
引っ越してきたきっかけは、離婚。都内で暮らしていたが、夫との仲が悪く別居することになった。しかも話し合いもろくにせず別居が決まったため、「今すぐに家を出ろ」といった私が追い出される結果となった。
やばい、家を探さないと住む場所が無い。
焦りからお世話になっている不動産屋に駆け込み、事情を説明する。
「あらぁ、大変ね。とりあえず物件探しましょう」
あ、職場から乗り換えなしの路線でお願いします。あとお金が無いので、安いところでお願いします。
「そうねぇ、この駅は治安も良いし、住みやすいらしいよ。私行ったことないけど」
○○駅……聞いたことないけどどんなところなんだろう、都内ではないけど、まぁいっか。
「告知事項ありだけど、この物件安くていいんじゃない?」
告知事項ありってことは、事故物件か。え、このきれいさでロフト付き4万円?!行きます、内見に行きたいです。
翌日、仕事終わりに内見へ行った。物件はとてもきれいで、築20年には見えないアパートだった。駅から歩いて10分。駅はにぎやかで栄えていて、家周辺は閑静な住宅街。事故物件になった理由も孤独死だったので、殺人事件とか起きたわけではないしまぁいっか、と思いすぐに契約した。
その日はクリスマスシーズン真っ只中。駅前は青いイルミネーションがキラキラと輝いていた。まもなく離婚し、第2の人生が始まろうとしている。不安混じりのワクワクした心を、そのまま映してくれているようだった。
2週間後、ついに1人暮らしが始まった。学生の頃ぶりの1人暮らし。一度は結婚した家族と他人に戻り、1人になるのは寂しかったが、とにかく自由だった。元夫のストレスから解放され、孤独から逃げるように、遊びに遊びまくった。たまに孤独に怯える日もあったが、それでも明けない夜は無かった。
嬉しかった出来事がある。この町に引っ越してきて半年が経つ頃、自転車を買った。
1万円くらいの、安い自転車。電動アシストなんてものはついていない。でも生活に慣れてきて、自分の行動範囲を広げたかったのだ。
家から近いところに、有名な曲の歌詞にも出てくる、大きな坂がある。その長い長い坂を、自転車でゆっくりゆっくり下った。風が心地良くて、良い休日。坂を下りスーパーでまとめ買いをし、なんだか自分がレベルアップしたような気がした。
それと、たくさんの友達ができた。
居酒屋巡りが趣味で、いろんな居酒屋でひとり飲みをしていたら、声をかけてくれる人が多く、ありがたいことに友達がたくさん増えた。飲みに行ったり、ライブに行ったり、気軽に遊びに行ける、笑い合える友達ができて、次第に孤独ではなくなってきた。
再婚もした。出会いはこの町ではないけれど、夫もこの町を気に入ってくれて、一緒に住むことになった。今は平和に、穏やかに暮らしている。
都心まで電車で1本で行ける。実家にも1時間で帰れる。空港も海も近くてすぐに行ける。自転車と電車があれば、私はどこまででも行けるような気がしている。治安も良いし、自然も多い。友達もたくさんいる。私はこの町が好きだ。
20代前半の、まだ不安定な私を支えてくれたこの町とこの家。小さなアパートでたくさん楽しい経験もしたし、苦しい思いもした。でもどんな日でも、明けない夜はないと教えてくれた。
私はこの先もこの町で生きていく。私の第2の人生がスタートしている。この町と出会えて良かった、夜のキラキラとしたイルミネーションを見上げながら、そう思ったのだった。さて、家賃の更新料を振り込まなきゃな。
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