憧れの人は何人もいるけれど、負けず嫌いな私が全てにおいて勝つのを諦めた相手は小学生の時に出会った彼女だけだ。崇拝と言っていいほどに憧れていた彼女は今でも私のロールモデル。

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出会ったのは小学5年生の秋。通っていた学習塾に彼女が入学してきた。私のクラスはその塾の中でも1番優秀なクラスだったから、途中から入ってくる人は滅多にいなかった。だから彼女は最初から異質だった。

そして、1回目のテストで彼女は女子の中でトップを取った。男子も合わせても3位という好成績。これまで塾に通ったことはないというのに、中学受験用の特殊な問題でいきなり上位を取る。彼女は本当に異質だった。

彼女のすごいところは勉強だけではない。まずはその容姿。整った顔立ちに凛とした佇まい。当時、一重と二重の違いさえ知らなかった私が一目見た時から、綺麗だと思ったくらいだ。
そして、ピアノと絵。それだけの頭脳を持っていながら、彼女はピアノもすごかった。彼女曰くピアノが1番優先らしく、そのためには時々模試も休むくらい。そして、絵でも県の賞を取っていると噂で聞いた。それを聞いた時には、もう何も敵わないとみんなが諦めていた。彼女は誰もが認める天才だった。

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だけど彼女の一番の魅力はその強さだった。男女は話さないという塾内の暗黙の了解を覆して普通に男子とも話すし、男子と話す彼女を悪く言う女子たちにも笑顔で話しかける。周りを気にせずに自分がしたいように振る舞う彼女は楽しそうで、人の目を気にしてしまう私にとって憧れだった。

そんな彼女と仲良くなんてなれないと思っていた。クラスに女子は10人もいなかったから話すことはあったけど、私は基本グループでいたから、1人でいる彼女と話すことは少なかった。
小学6年生の夏、塾のクラスではプロフ帳が流行っていた。彼女も何人かと交換していて、私も勇気を出して書いてもらった。このときはそれで終わると思っていたのに、プロフ帳はみんなで交換したのに彼女はその年私にだけ年賀状をくれた。『受験頑張ろうね』。大人びた字で書かれた彼女の一言が本当に嬉しかった。

私は彼女に慕われる資格なんてなかった。彼女の悪口を言う女の子たちと一緒にいたし、いつも話しかけてもらってばっかりで自分から彼女に話しかけたことは数えるほどしかない。
だからこのままじゃダメだと思った。年明けの塾で女の子たちが彼女の悪口を言っていたとき、一言だけ言えた。

「私は〇〇ちゃん好きだよ」

そう言えたとき少しだけ自分を好きだと思えた。それは彼女がくれた強さだった。

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彼女は私たちの県で一番の私立中学の合格を手にして、他県の中学に行った。初めから他県の中学に行く予定だった彼女には塾での人間関係なんて興味がなかったに違いない。これからは彼女の悪口を聞かなくていいことに少しだけほっとして、同時にすごく寂しいと思った。もう彼女に会うことができない。話すことができない。私は彼女のことが憧れで、本当に大好きだった。

それから8年が経った。他県にいる彼女との関わりは1年に1回の年賀状だけで、今何をしているのかも何もわからない。だけど、きっと今もあのままの彼女でいるんだろうなという確信だけはある。あのままの彼女でいてほしいと思う。

私は今も人の目を気にしてしまう。だけどいつか彼女に会った日、今度こそは堂々と彼女の隣に立てるように、私は強くなりたい。