高校で知り合った、野球部でキャッチャーだった彼はガタイがよく、眼鏡を外せば皆がかっこいいというくらいのイケメン。

きっかけは学校祭の準備期間中だった。高校一年生のとき同じクラスだった彼とは作業中に好きなゲームの話で意気投合し、以来よく話すようになった。後に私が彼を食事に誘い、その時に彼から告白された。

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お互い初めての恋人だった。彼氏の照れくさそうな返事が可愛くって、初々しさに溺れていた。部活で忙しいにも関わらず電話したいといえばいつでも電話してくれたり、嬉しかったことも愚痴も全部聞いてくれる彼は、私の高校生活において大切で、かけがえのない存在だった。苦しいことがあっても、彼を思い浮かべれば軽い気持ちになった。

そしてお互い大学受験生になり、厳しい冬を乗り越えた。私は第一志望校に合格し大学進学のために遠方に引っ越すことが決まったが、彼は全落ち。浪人生になることが決まった。私事のようにとてもつらい気持ちになった。何か彼のためにしたいと思い、私が引っ越す前に家でデートをしようと約束した。浪人生の気持ちをすべては理解できないけれど、今度は私が彼を支えたいと強く思った。

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昼頃に彼が私の家を訪れて、ごはんをふるまって、そのあとはカラオケに行った。帰り道に彼氏と恋人つなぎをして反応を伺ってみたが、面白い収穫は得られず。それでも彼と手をつなぐことが幸せで、ずっとこの二人の時間、ラブラブな関係が大学生になっても離れていても続いてほしいと思っていた。

家に帰った後は彼とボードゲームをして遊んだり、テレビを見たりしてだらだら過ごして、一緒の布団に入った。お互い足を絡ませながら抱き合い、翌朝目が覚めた後も抱き合ったり、彼氏が覆いかぶさってきたりして甘い朝を過ごしていた。なんとか起き上がり朝ごはん作りにとりかかる。

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また彼がテレビを見ていたので、一緒に見ようと近づこうとすると避けられてしまった。冗談ではないようで、初めての経験に、私は違和感を覚えた。複雑でもどかしい思いに駆られテレビの内容が頭に入らず、お昼近くを迎えた。

突然、テレビを消して、彼氏が私を抱き寄せた。初めての、力強いハグに体が震えた。

「あのね、俺たち別れたほうがいいと思うんだ。俺は浪人生で忙しくなるし、君は大学進学で遠くで勉強するし。自然消滅とかで終わるのは嫌だ。だから今日、けじめをつけに来たんだ」

ショックすぎる最を理解できなくて、昨日がまるで幻のように思えた。彼は、勉強に集中したいそうで。

「新しいところで、たくさんの人に出会って。俺よりあたたかくていい人なんていっぱいいるから」

いやだ、別れたくないと言いたくなった。しかし言葉に隠された力強い意志が伝わり、絶対これは無理だ、今日でふたりはもう終わりなんだと確信した。

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彼が帰り、空っぽになった部屋で立ち尽くしていた。涙があふれて滲む部屋を見つめて、昨晩の甘い記憶を反芻していた。何回もキスをして、彼が誘ってきて、もちろん受け入れた。血も出て痛かったけれど、二年間待ってようやく初めて結ばれて、彼の大きなぬくもりを全身で感じて、こんなに甘くて幸せな一夜はなかった。

メッセージには「ありがとう」と残されていた。そういえば、彼氏に告白された日の帰り道にも、「今日はありがとう!」なんて言われたなあ。お互い恋愛初心者だったのに、いつの間にか彼が一枚上だった。

大学進学で失ってばっかりだと思っていたけれど、この別れは損失なんかじゃない。愛は近くにいることがすべてじゃなくて、一歩後ろに引いて、相手の幸せを応援することも、一つの愛のかたちなのかもしれない。今は前を見ることすら辛いけれど、意味のある出会いと別れなんだと割り切りたい。非表示のアルバムにあふれる彼を見て、いい思い出だったって笑顔で振り返ることができる日が来ることを祈ってみる。