時代の変化と共にアップデートされる「アットホームな会社」の在り方

アットホームな会社、家族のような会社。字面は美しいが、理想と現実には大きな壁があるように思う。
2011年3月11日東日本大震災の時。私はまだ中学生でもない、高校生でもない時。 住む地域も、被災者はそこまで多くなかったものの、大きく揺れて、古い家屋がくずれ、壁にヒビが入り、家の中のものが落ちて散乱して、水も電気も止まった。
結局、復旧したのは 1週間後とか、10日後とかだっただろうか。
幸い近くの祖父母が農業をやっていたこともあり、井戸があった。水道が止まって、皆が市役所などに長い列を作って、制限のある水を貰いに行く中、私の家は井戸水で凌いだ。
そしてガスもプロパンガスで、家の電気はつかなくても、火が使えた。そのためガスコンロで沸かした水でカップラーメンを食べたり、土鍋でお米を炊いたりと、私の家は恵まれていたと思う。
もちろん、家のことだけではなく、会社のこともある両親は、昼間は会社へ行っていた。
母は、家で炊いたお米でおにぎりを作り、職場の同僚の家に持って行った。私もそれについて行ったこともあった。父は、食品関係の仕事ということもあり、普段食品などを入れる発泡スチロールの箱に、ビニール袋とそこに水を入れて、各所に運んだりしていた。
助け合い、という言葉はこういう時のためにあるのだなと実感した瞬間だった。特に損得と か、好き嫌いとか、そういうのではなくて、お互い様、助け合い。
普段、自分たちの会社が大好きというわけでもなく、愚痴も言いながら勤めていた両親。そういえば、私が小さい頃は、会社の人が庭に来てバーベキューとかしてたっけ。母の会社に遊びに行って、時間をつぶさせてもらったりしてたっけ。
田舎だからっていうのもあるかもしれないけど、両親を通して感じていた「会社」というの は、社会との接点であり、時に助け合う、セイフティネット、社会インフラというイメージだった(もちろん当時はこんな難しい言葉は知らなくて、感覚として)。
では実際に今の私はどうだろうか。
就職活動の時によく目にしたアットホームな会社という売り文句。色々なサイトには、注意喚起がされていた。アットホームを前面に出している会社は危ないとか。
私自身は、あまり会社の人と深く関わりたくないなと思ってしまうし、仕事とプライベートはしっかり分けたいなと思っている。そうでないと自分の心を守れない気がするからだ。一度、壊してしまった経験があるから。
今では、リモートワークも転職も当たり前で、短時間勤務とか、選ばなければ様々な働き方が出来る。日々変化する時代や生活スタイルに合わせて選択肢が増えるというのは良いことだと思う。でもその一方で、会社と従業員との間の距離は希薄になり、離れていっているのかなとも感じる。
確かに、昔は終身雇用が当たり前で、つまりはよほどのことがない限り、会社がその人の人生に責任を持つということでもあるから、必然的に今よりもっと関係性が濃くならざるを得なかったのかもしれない。
少しの寂しさと、でもプライベートには踏み込んでほしくないという気持ちと。何が正解なのか。会社との距離感って難しい。
でも仲がいい人とか、尊敬する先輩、上司がいればずっと付き合いたいと思うだろうし、そうしたら必然的に関係性も深まるのだろうなと感じたり。
でも、なんでもパワハラ認定される今(ハラスメントの存在は明らかにしていった方がいいと考えてはいるけど)、会社における人間関係というのはぎこちなくなっているのかなとも感じる。
ちなみに現職では、人数が少ないので一緒に行動する時間が長く、いくら好きになれなくても、ある程度いい子ちゃんというか仲がいい振りというか、自分の気持ちに蓋をしなければいけない時が多々ある。特に、客先では。
もちろん普通に楽しく会話をすることもあるし、だから一見すると私たちは社員仲がいい、風通しがいい、家族みたいに見えているかもしれない。でもそれは大間違い。あくまで他人だし、よそ行きの顔。冷たい言い方だけど。
社長も口癖でよく、会社よりも家族を大切にしろとか、体が第一だと、綺麗事を言う。他人にとってみれば、社員思いで、いい会社だろう。
そのため会社を褒められても、そんなことないですよ、大変なんですよ、と時に訴えても、塗り固められたアットホームな壁は壊されることはない。
気分屋な社長は、機嫌が良ければ、次々に調子のいいことを言うけれど、機嫌が悪い時は、普段よくしてくれている人の悪口も言い出すし、私たち社員にもあたるし、声を荒げる。
それぞれの会社と社長の個性と社員と、時代と。正解は無いけれど、会社が世間に掲げるアットホームという看板は、時代とともにアップデートされていく必要があるのだろう。
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