「恋をしていた」と言えるたった1回の恋。たまに夢に出てきてほしい

私には忘れられない初恋の人がいる。それは中学3年間想い続けた恋の相手。途中までは楽しくてどきどきの毎日で、とても青春していたなと思う。でも終盤で仲の良かった友達もその相手を好きになってしまい、実ったのは私ではなくその友達だった。
それよりも前に、私にも実りかけた瞬間があったけれど、結果的には私の臆病で奥手な性格が邪魔をして自然消滅した。初めの頃は部活や委員が同じだったこともあって、その友達よりも私の方が彼とかかわる時間が多かった。
彼は、バスケ部のエースでクールな雰囲気で少し悪っぽくチャラい印象。バスケが上手で単純にかっこいい。普段はあまり喋らないからこそ、喋れた時はとても嬉しかった。そしてクラス、学年問わずとてもモテていた。
今思い返しても甘酸っぱい思い出がたくさんある。恋が実りかけていた頃、普段クールで女友達には絶対に手を振らないと言われていた彼が、部活終わりに初めて二人で帰った後、別れ際に少し照れ臭そうに手を振ってくれたこと。部活中に目が合ったこと。休みの日にみんなで遊んでいる時に周りの友達が気を遣って二人にしてくれた瞬間。委員会に行くために、同じ教室から二人で一緒に移動したこと。すごく些細なことだけど、とても鮮明に覚えていることがたくさんある。
私がこの「初恋」を忘れられないのには理由がある。それは高校、大学、社会人になっても、彼がたまに夢に出てくること。とてもリアルに。中学生の頃に戻って廊下で休み時間に二人で他愛もない会話をしている夢やあの頃みたいに学校の帰り道を一緒に歩いている夢、手を組んで一緒に歩いている夢。
どれも夢では幸せな描写ばかりで、あの頃の内に秘めた理想を取り戻すかのような内容。夢を見て起きた瞬間は、どこか心が満たされていて幸福感を感じている気がする。今は定期的に夢に登場してくれるけれど、夢に出てこなくなったらこの「初恋」は自然と忘れるのかな。
もし、彼にもう一度会えたら何を伝えるだろう。いざ本当に彼の姿を見かけたら私はどうするんだろう。きっと気づかれないように見ることしかできないんだろうな。普通の同級生の再会みたいな行動はできないんだろうな。心の中では気持ちが高ぶっていてこの高ぶりを隠すことに必死になるんだろうな。高ぶったところで彼は気づかないし声を掛けるわけでもないけれど、その日の通勤時間はなんとなく苦じゃないと思うし、その日の帰り道はなんとなく気分が晴れていると思う。夢に出てきた日の起きた瞬間のあの幸福感みたいに。
結果は何も変わらないしあの時の恋がまた始まったわけでもないのに。
良く考えればそれ以来、恋をしていない。忘れられなくて未練があって進めない訳ではないけれど、本当に出会いがない。でも自分がした恋愛はただ一人だけだったんだと大人になって気づく。
「初恋」の定義は難しいけれど、私の中で幼稚園、小学生の頃の恋や好きになった人はどこか「ホンモノ」じゃないと思っている。「かっこいい」「優しい」という感情から「好き」になるまでに時間を要さない感じが大人になってからの恋に比べると可愛いものって思っている。幼稚園や小学生の頃に好きになった子もいるしバレンタインのチョコを渡した男の子もいる。でも私の中でその子たちは「初恋」に含んでいない。
「恋」の定義もあるようでないのではなと思っている。大人になると尚更、どこからが好きなのか、どこから恋に繋がっているのか分からない。大人になるってこういうことなのかなとも思う。そんなことを考え出したらどんどん恋ができなくなっていたし、あの初恋以来、自分が恋をしていたのかも分からない。ただ明確に「私は恋をしていた」と言えるのはただ1回、初恋の時であることだけは分かる。
もう一度告白したいとか、付き合いたいとかは思わないけど、あの頃の私が今のあなたの頭にちょっとでも残っていたらいいな。
ただひとつ願うことは、これから何年たっても、たまにでいいから夢に出てきて欲しいな。あの幸福感だけでもいいからずっと感じていたい。
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