この話をするにあたって外せないのは、わたしにとって初めての彼氏であるYさんである。
わたしが23歳アパレル勤務をしていた時の先輩に当たる人で、信じられないくらい前髪を綺麗に切り揃えているモードファッション系の男の子だ。

新卒入社の彼はわたしより1年先輩だが、年が同じなことと漫才好きという共通点で出会って程なく交際に発展した。

わたしは初めての彼氏という存在にとても強くなったような気がした。「わたしったら、彼氏がいまーす!フゥ〜」と踊り出したい毎日だった。更に数ヶ月後には同棲まで。これは絶対結婚するだろう!否、しないルートを見つける方が難しい!
先に言っておくと、2年の交際期間を経てお別れとなる。

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同棲をしてからは何が起こったのか、喧嘩三昧。口を開けばお互いを否定する会話。今思い出してもムカつく物言いだ。毎日がコンチクショウ。やがてお互いが疲弊してしまい終止符を打った。結婚しないルート、見つけたり。

辛いのはここからだった。毎晩わけも分からず泣き散らし、復縁する方法を調べては今までの自分の行いに後悔する。もう死んだ方がマシだと本気で思う日もあった。

他の男の子なんて見ようという気も起きなくて、彼のことを考える以外何もできない。こんな恋愛ドラマの悲劇のヒロインみたいな心境が現実であるんだとか思いつつ、何やかんやで1年半ほど引きずった。

年単位で引きずった私の感想、「まずい」。

何か他のことを考えないと、初彼氏壮大思い馳せオバサンになってしまう。そんな人生何と恐ろしい。そう思ってわたしは読書をはじめた。

黙々と、ただ黙々と字を読んで頭の中に放り込んだ。すると1冊の失恋小説がグサグサとわたしの心をえぐった。そう!そうそう!こういう気持ち!一緒一緒!

自分の悲劇を代弁してくれたような気がして救われた。そこからわたしはじわじわと回復し、読書も趣味として継続した。今では小説をはじめとして、エッセイ、シナリオブックと色々な活字に手を出している。

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本を読み始めて視野も広がった。こう考える人もいるんだ。それを許せるの?信じられない!とか。視野が広がると気づきも増えて、また後悔に繋がったりもした。彼はあのときこう思っていたのかな、わたしもこうすれば良かった。

でも以前と違って前向きな後悔だった。次に大切にするべき人ができたらそうしよう。そう思えたわたしは今、人を大切にすることができる。時には方法を間違ってしまうけれど、それもまた成長過程ということで。

お別れをしてからの彼のことはもう全く知らないけれど、もしまた道でばったり出くわして「よっ」なんてことがあったなら、そのときは「あなたのお陰で趣味ができて視野が広がったし、人を大切にする意味を少し理解できました!ありがとう!」という気持ちをこめて、フルビンタして立ち去ろうと思う。どうか今もお元気で。