綺麗な形で始まり、そして終わった初恋は今も心の中で輝き続けている

今まで3人の人と付き合って、お別れをした。みんな心から尊敬できたし、大切だった人。
でも「1番綺麗に記憶に残る人」は別にいて。今でもたまに思い出す、中学2年生の初恋の記憶——————。
彼と初めて出会ったのは中学2年生の春。新学期のクラス替えを機に、隣の席になった人。
私の通っていた中学校は、1学年200人ほどの生徒が在籍するマンモス校。中学1年生の夏に転校してきた私にとって、新しいクラスメイトは見たことのない人ばかりだった。もちろん隣の席の彼も「どちら様ですか」状態。おそらく彼も同じ感情を抱いただろう。
お互い顔も名前も知らないから、席に着くなり軽い自己紹介を交わす。1年のクラスや好きな趣味など、当たり障りのない会話をした。このとき彼に抱いた感情は「肌が白いなぁ」とか「頭良さそうだなぁ」とか、それくらい。あと「せっかく隣の席になったから仲良くなれたらいいな」という少しの期待が、少しちらついただけだった。
毎日隣の席で授業を受けて、給食を向かい合わせの席で食べて……。話す時間が増えるとともに、共通点が多いことに気づく。好きなアーティストや漫画など、驚くほどに好きなものが同じ。気付けば、休み時間も他愛ない話をする時間が増えていった。そんな日々を過ごすうちに、いつからか、彼に対して特別な感情を抱く自分がいた。
彼の姿が視界に入るたびに。「おはよう」とあいさつを交わすたびに。隣の席で話すたびに、胸がキュッとなるような、今まで抱いたことのない感覚がある。何か特別な出来事があったわけじゃない、いつも通りの日常を繰り返していただけなのに。彼のこととなると、気持ちが淡いピンク色に染まっていった。
「なんだろうこの感じ……変なの……」。初めての感覚に違和感を覚え、妙にソワソワする。だけどこの感覚は嫌なものではなくて、居心地の良さを感じるような……。一言でいうと「居心地のいい違和感」。そんなもどかしさを抱えながらも日々は過ぎていき、気が付けば1学期が終わりを迎えようとしていた。
夏休み前の終業式。この日を境に、彼に1ヶ月ほど会えない日が続く。喉から手が出るほど待ち遠しかった夏休みなのに「彼に会えない」という事実を突き付けられると、ワクワクした気持ちが海の底へと沈んでいった。
終業式と部活が終わり、友人と家路につく夕方。空が赤く染まる景色の中に、カナカナ……と、ヒグラシの鳴き声がする。早く家に帰りたいはずなのに、部活の疲れからか、気持ちの落ち込みからか、歩みがなかなか進まない。
「あのさ」と、友人は急に何かを思い出したかのように私に問いかける。そして「いとって〇〇君のこと好きなの?」と、さらりと聞かれた。瞬間、今まで抱えていた違和感に「恋心」という名前がつく。自分でも驚くほどしっくりくる名前に、ぐらりと心が揺らぐ。「彼のことが好きなんだ」。そう自覚した瞬間、心拍と体温が急上昇した。これが恋と呼ばれるものなのか。こんなにも、こんなにも……心が熱くなるのかぁ。
煌々と照らす夕日のせいか、それとも初恋のせいか。私の顔は赤く赤く染め上がる。いてもたってもいられなくなった私は、横でニヤニヤと笑う友人を置いて、一目散に駆け出した。
夏休みが明けて彼に再会したとき、改めて彼への恋心を自覚した。「やっぱり彼のことが好きなんだ」と。
だけど、私は彼への恋心を打ち明けることはしなかった。勇気がなかったという理由もあるけれど、何よりも楽しくて幸せな、このいつも通りの時間を壊したくなくて。
そうしてあっという間に季節は流れ、3年生のクラス替えで離れ離れになり、彼と話す時間は減っていった。
「付き合いたくなかったの?」と聞かれると、そういうわけでもない。手を繋いで、隣を歩いてみたかった。一緒に遊園地とかお祭りにも行ってみたかったよ。だけどそれ以上に、彼と過ごす時間が確実に存在することが、私にとっては1番大切だった。
想いを伝えることはなかったけれど、私にとって、綺麗な形で始まって終わった初恋。この先もきっと、この恋の記憶は、私の心の中で美しく生き続けてくれる。
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