「近い将来、5年後くらいかな、門司に住みたいんだよね」と言うと、大抵の人は「門司ってどこ?」と聞いてくる。

福岡県北九州市、関門海峡の九州側、九州の一番上の方。地図アプリで場所を示しながら説明すると、ふ~んと気のない返事をする人もいれば、いいですねと肯定的な意見を示してくれる人もいる。

そして、高確率で次の質問を口にする。
「なんで門司なの?」と。

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門司の地を初めて踏んだのは2023年のお正月。パートナーの実家にご挨拶に行くついでだった。「君多分好きだと思うよ」という言葉のまま、なんとなく行くことにした観光地。『門司港レトロ』と呼ばれているそこは、その名のとおりノスタルジックな雰囲気が漂う港町だ。

結論から言うと、大好きだった。「将来絶対ここに住む!」とその場で宣言してしまうくらいに。 

まず景色がいい。いわゆる大正ロマンな建築群もさることながら、私が特に惹き寄せられたのは海だ。瀬戸内海はとても凪いでいて、ベンチに座って眺めているだけで優しい気持ちにしてくれる。

ぼーっと時間を忘れていると、次第に日本最大級の跳ね橋がゆっくりと上がっていくのか視界の端に見えた。なんだ?と目線をやると、跳ね橋の下をこれまたゆっくりとクルーズ船が漕ぎ出していく。クルーズ船乗り場は門司港駅のほど近くにあって、街の玄関口から大海に向かう姿は、私たちが本当は自由なことを思い出させてくれる気がした。 

それに、街全体が落ち着いていて穏やかだ。空気も時間も流れがゆったりとしている。都会のような喧騒やせわしなさがなくて、人々の表情も柔らかいような気がした。そういう街だと余裕がある人が多いのか、困っていることがあるとみなさん優しく話しかけてくださるのだ。

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たとえば、博物館の古い公衆電話を体験できるコーナーで使い方がわからなかったとき。たとえば、美術工芸研究所に迷い込んでしまったとき。どなたも丁寧に説明してくださるだけでなく、「ぜひ楽しんでくださいね」とあたたかい想いを伝えてくださった。

「それだけなら他のところにもあるんじゃない?」と思う人もいるだろう。確かに、日本全国を探せば「海があって人が優しい田舎」はたくさんある。私の生まれ故郷も似たようなものだ。 

しかし門司は、海があって人が優しいだけじゃない。門司港駅から、新幹線も停車する小倉駅にものの15分でアクセスできる。都会出身の人にはイマイチこの魅力が伝わらないかもしれないが、これは実はすごいことなのだ。

思い立ったらすぐに新幹線や飛行機でどこにでも行ける立地。移動の自由があるだけで、気軽に外の世界にアクセスできるというだけで、世界は大きく開ける。自分の意志で、視野を広げられるというのは、余暇も含めて人生な私にとって重要だ。

これが、私が門司に住みたい理由。この場を借りて、改めて決意表明をする。

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近い将来、5年も経てば、友人達は結婚や出産など、それぞれのライフステージを登り始めるだろう。でも、私は結婚も出産もしたくない。その代わりに、この憧れの一員になりたいという夢がある

海があって、人が優しくて、移動の自由がある街、門司。そんな私にとっての理想郷で、私なりの人生のネクストステップを歩みたい。