イギリスに留学していたとき、徹夜を何度か繰り返したことがある。私のSNSを見ていた人は遊んでばかりだと思ったかもしれないけれど、実際は授業についていくのに必死で、日々勉強の連続だった。あれほど密に建築を学んだのもはじめてで、戸惑いつまずきながら進んできた。時間をかけて、ゆっくりと自分のものにする。いかに自分の設計を美しく見せるか?それを実現するために、自分で一から調べて、ときには友人に教えてもらったりして、少しずつ、できることが増えていった。ただ、上手くいかないこともあって、そのために時間を取られてしまい、徹夜になってしまうこともあった。

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そんなときは、24時間空いている大学図書館に籠るのがいい。図書館の入り口にはセキュリティマンが常駐していて学生証がないと入れないため、夜間でも安心だ。図書館の中は飲食OKで、トイレもある。同じように勉強している学生たちがいることが刺激になり、何より建築系ソフトが使えるデスクトップが使えるのが最高の学習環境だった。私は何食分かの食料を買い込んで戦地(図書館)へと赴いた。最初の方は締め切り間近ということもあり、手がどんどん進むが、アイディアにつまってしまうと集中力が切れる。

しばらくスマホを触ったのちに、はっと気づいて作業に戻る。夜中の2,3時までは人がちらほらいるがそういう人たちも数時間後には帰っていく。人もごくわずかになった明け方、もう目が座ってきて意識も朦朧としてくる。この時間が一番しんどかった。そして、ようやく満足のいくポートフォリオができ、提出をしてのびをする。

気づけば周りには誰もおらず、空は白み始めていた。一人でずっと同じ場所で作業なんて大変だと思われるが、実際その場で作業をすると、自分のできることが増えていっていることに気づく。近くには、違う学年の建築学生らしき人たちの会話が聞こえ、みんなで教え合いながら課題に取り組んでいるのを微笑ましく思いながら横目に見て、BGMには好きなアニメや音楽を流して徹夜を楽しんでいた。帰り際、空いているテーブルの掃除をしている清掃員に、お疲れ様です、と心の中で声をかけた。

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最終的に、何も知らない状態から大きく成長できたと自分の中では思うが、周りの学生たちから見たら私のものは陳腐なデザインだったと思う。だけど私は、心から建築学生であることを誇り、この大学で学ぶ機会を得たことに感謝をした。

友人たちと朝から図書館にこもって夜まで作業し、それも今となってはいい思い出だけれど。やっぱり最後は自分との戦いだった。結局、最後までゴールを突き抜けられるか。芸術の世界は突き詰めれば、果てしない。みんなそれを分かっていて、だけど妥協はしたくない。その矛盾との葛藤の中で、己の最高傑作を出してくる。展示会に行って作品に触れたとき、心が震えた。私も、クオリティの面では劣っているかもしれないけれど、彼らと同じように自分の魂をつくったのだ。

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留学先で得たその経験は、のちに大きな自信へとつながる。
日本の大学生活に戻った今は、研究室に配属されて週に数回ゼミがある。ゼミの中では色々人間関係の対立やそれぞれが抱える不満があるらしく、私は既にもう嫌気が差している。人付き合いの苦手な私は上手く溶け込めるのだろうか、とも思う。先輩の卒業研究を見ていて、私もこれだけのことができるのだろうか、と不安になる。だけど、私がこれまで乗り越えてきた数々の眠れない夜を振り返ってみれば、何でもできそうな、そんな気がする。