大好きだった子が、卒業する。

トンチキソングを歌うアイドルグループにいるほわっとした女の子。恐竜をみるのが趣味だったり、ブログで誰も使わないような絵文字を使ったりするような不思議な子。メンバーカラーのラベンダーがとっても似合う純粋無垢な子。

最初は、可愛らしいお顔と趣味や言動とのそのギャップに惹かれたのだけれど、ステージで瞳を輝かせながら舞う、歌が大好きな可憐な少女に、気づけば心ときめくようになっていた。

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同年代の彼女は私にとって「推しのアイドル」であり、「恋に落ちてしまいそうな女の子」だった。彼女のパフォーマンスは覇気があり、歌声は力強くて、全身で楽しさを表現していてステージでオーラを放つ。対して、配信でトークをしたり一対一でお話したりする彼女は本当にどこにでもいそうな女の子だった。

興奮しながら流れるように言葉を発するときもあれば、難しい質問にしばらくうーんと唸ったり、ヲタクの奇行に苦笑いしたり。そんな親近感があって気さくなところにも私は惹かれたのだろう。

彼女に出会って世界が広く明るくなった。身体が弱く休日は家に籠もりがちだったのが、少しずつ外に出るようになった。彼女が行っていたからと「聖地巡り」を称して色んな場所におでかけするようになった。同じグループを勧めてくれた友人との仲が一層深くなった。

SNSの更新やパフォーマンスの配信、たまに行くイベントを楽しみに、良いことばかりじゃない毎日も顔を上げてがんばれた。どんどん知名度が上がっていくグループとそのグループにいる彼女が、数年後どんな景色を見せてくれるだろうと思いを馳せた。

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卒業を知った瞬間は言葉を失った。まだほとんどの子が活動を続けているそのグループで、彼女がこんなにも早く卒業するとは予測していなかった。芸能界にあまり執着していなさそうな、表舞台からふっと消えてしまいそうな儚い彼女に一抹の不安を抱いたけれど、「大好きな歌を歌って発信していきたい」と夢を語った彼女の強い意思に、卒業してもまたキラキラなあなたを観られるのね、と安堵した。

卒業後の彼女に楽しみ半分不安半分だった頃、彼女のソロデビューイベントを観に行った。元気いっぱいなグループの曲とは違って、やわらかく澄んだ曲だったけれど、鈴の鳴るような可愛らしい声を持つ彼女にぴったりで、彼女の新たな一面を知った。

「好きなものがたくさん詰まっている曲とミュージックビデオだ」と喜びを語り、満面の笑みで歌う少女に、きっと大丈夫、と思えた。あなたも大好きだったグループを離れても、あなたは輝ける。あなたならたくさんの人に歌の魅力を伝えられる。あなたなら今よりもっともっとたくさんの人に幸せを届けられる。

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卒業したらすぐに留学に行くそう。おそらくその間は歌を歌わないのだろう。だからまた表舞台に戻ってくるまで、暫しのお別れ。

アイドルだった大好きな彼女を、きっと私はこれから何度でも思い出す。
たくさんの幸せをありがとう。また会える日まで。