中学の理科の先生は背が高かった。
多分、180cmくらいはあったと思う。
他の先生よりもすらっとしていて、廊下でもすぐ見つけられる先生だった。

そんな先生の口癖は、「オレ、背も高いし、運動もできるし、勉強もできるんだけど顔だけダメなんだよな〜!」だった。
そう、先生はイケメンとは言いづらい顔をしていたのだ。

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当時、先生は20代半ばだった。
生徒とも年齢が近いからか、廊下を歩けば誰かと話をしていて、男女ともに好かれている先生だったと思う。

そんな先生も、授業となるとかなり厳しい人だった。
実験をするときに肘をついている生徒がいれば「危ないから肘つけるな!」と叱り、ちょっとでも遊ぼうとしたやつがいれば全力で説教をする人だった。
人によっては先生を好いていない人もいたが、今思うと実験の危険性をきちんと教え、生徒一人ひとりを守るためだったのだと理解できる。

そして、何より理科というものが好きな人だった。
ある日の授業では、青函トンネルで計測した結果を資料にまとめて、生徒に発表したこともある。

「計測のために機械を自前で購入した」と嬉しそうに話す先生を見て、「大人になっても、興味あることをやるのって良いな」と思った記憶がある。
なんとなく、その頃の私にとって教師という人たちは「真面目で、学校しか知らない人」と思っていたので、「大人を楽しんでいる人」は新鮮だったのだ。

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ある日、寝る前に外を見た私は月が真っ赤に染まっていることに気づいた。
スマホなんて物はなく、すぐに調べることができずに悶々と過ごしていた私は、理科の先生に聞いてみることにした。

「おぉ、よく気づいたね!」

そう褒めてくれた上で、月が赤くなることを詳しく教えてくれた。
単純に考えれば当時でも気づけたことかもしれないが、先生は真剣に私の質問に答えてくれた。そんな小さなことが、私は嬉しかった。

先生が担当している掃除場所の週は、少しだけ放課後が楽しみだった。
元々、理科は好きなほうだったが、もっと好きになっていた気がする。

あのとき、私は先生のことが好きだったのかもしれないなと今になって思う。
恋愛とかではなく、1人の人間として好きだったのだ。
こんな大人になれたら、面白いだろうなと思わせてくれた人だった。

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最近、同棲している彼が外を見て「月が赤いよ」と言ってきた。
カーテンから覗くと、見たことのある赤い月がそこにあった。
「地平線に近いと、月も太陽も赤く見えるんだよね」と、先生から教わったことを伝えながら、中学生の頃を思い出す。

確か、私たちの代が卒業するとき、先生は別の学校へ異動した気がする。
卒業式のとき先生に渡した花束と、一緒に撮った写真はどこにいっただろうか。
先生は今でも理科を楽しんでいるのだろうか。

学ぶこと、知ることの楽しさを教えてくれた先生を思い出しながら、私は彼に話をした。

「中学の頃、面白い先生がいてね……」