今までで一番の「脱出失敗」。あと一歩先の景色を見る為に今日も挑む

先日、リアル脱出ゲームに挑んで、あと一歩のところで「失敗」した。
あと一歩、あと1つピースを思いついていれば、脱出成功だった。
その事実がたまらなくうれしかった。
高校の友人とリアル脱出ゲームに行くようになったのはいつごろだったか。はじめは街巡り型の謎解きゲームを観光感覚で楽しんでいて、気付いたときには「謎解き沼」にハマっていた。
リアル脱出ゲームは、自分自身が物語の主人公となって、たとえば謎の研究所や廃墟などから脱出を試みる体験型のゲームイベントだ。小・中学生の時にインターネットで「脱出ゲーム」をしたことがあるという方も多いのではないだろうか。
リアル脱出ゲームではいくつかのステージを順にクリアしていった先に、その物語の集大成であるラストステージ、いわゆる「大謎」というものが存在する。その仕掛けを解き明かした状態で制限時間を迎えれば見事クリア、晴れて脱出成功!というわけである。
小説のレーベルのように、リアル脱出ゲームにもレーベルが存在し、設定やギミックにそれぞれの特色がある。思考力やひらめきだけではなく、レーベルや公演自体への対応力が求められるのも面白いポイントだ。
リアル脱出ゲームに月イチくらいで通うようになってしばらく経ったころ、仲間の1人が「職場の先輩に紹介されて」と、あるレーベルを教えてくれた。
そこは「リアル脱出ゲーム」をメタ的視点から捉えた謎が出てくることが特徴で、脱出ゲームに慣れてきた人向けの公演を実施しているらしい。
そろそろ新しいジャンルに挑戦したいねと話していたわたしたちにとって、ちょうどいい提案だった。狙いを定めたのはそのレーベルの第100回記念公演。一度も参加したことがないのに、「わたしたちならいける!」と無謀にも挑戦した。
結果は惨敗。
「大謎」にたどり着くことすらできなかった。数々のリアル脱出ゲームに挑戦してきたわたしたちにとって、はじめての出来事だった。もちろんリベンジを誓い、すぐに次回公演の予約をした。
あの日から数か月。何度かこのレーベルの公演に挑み、毎回「失敗」する。ただ、確実に手ごたえは増していた。
リベンジだと意気込んだ公演は、大謎にたどり着いたところでタイムアップ。その後も挑んでは、制限時間ギリギリまであーでもない、こうでもない、と頭を悩ませた。
どれも「失敗」であることには変わりないけれど、あと5つ思いつけば、3つ振り返っていれば……と、回を重ねるごとに着実に「成功」に近づいていく実感があった。
そして先日の公演では、制限時間まで5分ほど時間を残して、ついに「これだ!」という答えにたどり着いた。ようやく「成功」に手が届くのだ。
残り時間で何度もなんどもシミュレーションをして、矛盾はないように思えた。あとできることは、祈ることだけだった。
迎えたタイムリミット。解説の時間が始まった。
前半の謎解きは完璧で、仲間と笑顔で頷き合う。裏をかいたギミックを説明するときの「……しかし、本当にこれで良かったのでしょうか?」という前置きにも驚くことはなかった。
いよいよ解説も終わる、というころ。完全に安心しきっていたわたしたちは、想定していなかった「しかし」に顔を見合わせた。
解説者の口から続く言葉は、そういえば最初に「なんでだろう?」が一瞬浮かんだことについてだった。はじめのステージから、さりげなく指示されて、言われるがままに取っていた行動。ステージを進めるごとに当たり前になっていて、もう疑問にも思わなくなった行動がこの脱出劇のキーだったのだ。
わたしは「あー!」と叫びそうになるのを堪えながら、その解説の続きを聞いた。仲間の1人は、満面の笑みで頭を抱えている。またしても「失敗」したことが分かった瞬間だった。
解説者がすべての謎を説明し終え、「つまり皆さんは……」とこの公演のまとめに入る。大掛かりな謎をひとことにまとめてしまうところも痛快だ。
「見事脱出に成功したチームは……」の先にわたしたちのチームは呼ばれないことを知りつつ、なぜか祈るのをやめられなかった。
今回も「失敗」した。もちろん悔しい。しかし、確実に脱出のためのスキルが上がっていることもまた事実。今度こそやれる!と意気込んで、すぐに次回の日取りを決めた。
わたしたちは今日、またリアル脱出ゲームに挑む。あと一歩を超えた先の景色を見るために。あと一つピースを埋めるために。
きっと「成功」の喜びを味わうことができるその日まで、いやもし「成功」できたとしても、この「失敗」のうれしさはずっと噛みしめるだろう。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。