高校2年生の夏、1個上のS先輩に手を出した。ちょっと背伸びをした恋だった。

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今まで、男子と極力関わらずに生きてきた私の、初めての恋愛だった。消極的で、見た目も普通である私は、自分には恋愛は無関係だと言い聞かせて、男子に対して感情を抱かないようにしていた。男子と話すのは避けて、もし男子と話して、顔が赤くなっては困るから、コロナの流行が収まっても、マスクをつけ続け、自分の世界に閉じこもっていた。

高校2年生になって数ヶ月が経ったある日、廊下で先輩と目があった。その時彼の名前すら知らなかったけど、彼の瞳に吸い込まれるかのように、暫く見つめてしまった。私の絶対恋愛しないという決意はだんだんと揺らいでいく。

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その数週間後、下校中、またその先輩を見かけた。私の前を歩いていた先輩が振り返って、私と目があったように感じた。思わず、高校時代に運命の出会いをして、初めての彼氏ができる、という少女漫画のシナリオと自身を重ね合わせる。こんな陰気な私にだって高校時代に彼氏を作っても良いのではないか?もう私の感情は制御不能だった。

DMで彼とのやりとりを続けて、彼と出かけることになった。初デートだったけれど、彼が面白いことを言ってくれたおかげで、口数が少ない私も楽しめた。
その日の夜8時ごろ、分かれ際。彼が私の彼氏になる未来がもう見えていた私は、彼に告白する。彼は、間を置いてから、私を振った。

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その後聞いた噂によると、彼はどうやら後輩に人気の先輩で、プレイボーイだったらしい。学校のカースト下位の私にはそのような噂は耳に入ってこなかった。

カースト下位の私だったけど、あの先輩と出かけたという噂で、私に対する皆からの印象は大きく変わった。皆も私なんて恋愛とは無関係の人だと思っていたからだ。私の外を取り巻く世界は、私を容赦なく蝕む。私がカースト下位であることをいいことに、カースト上位の女子たちは、私や先輩への辛辣な言葉を私の目の前でも厭わずに浴びせる。
それでも、私は自分の感情を押し殺していた時よりはずっと楽だった。それに、そのスキャンダルのおかげで、私は学校で地位を獲得できたような、少しだけ誇らしい気もした。

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今までの私は恋はするものだと思い込んでいた。高校時代、私は彼氏がいるというステータスが欲しくて誰かに認めてもらいたくて、恋をした。

恋はするものではなくて、落ちるものだ、という言葉がある。たしかに、あの先輩と目があった時などは、私は恋に落ちていたかもしれない。しかし、彼氏がいるというステータスを求めるあまり、承認されたいあまり、だんだんと彼との恋は、「落ちる」から「する」に変わっていった。実際、彼と出かけた時も、胸が締め付けられるような感覚はほとんど感じなかった。

あの先輩を追いかけて、恋をしていなかったら、私はこのことに気づけなかっただろう。だからこそ、私は、本当の恋を、「落ちる」恋を探せているのだ。本当の、「落ちる」恋できれば、あの時浴びせられた辛辣な言葉も気にしないくらい、恋に溺れられる。