あの春「好き」に向き合えなかった自分のことを私はまだ許せずにいる

私が人生で一番好きだったのは、同性の女の子だった。私が彼女と出会ったのは、高校2年の春だった。部活動に一年後輩として彼女は入ってきた。凛とした雰囲気が印象的だった。
私が所属していたソフトボール部は、県内屈指の強豪だったため、練習は厳しく、レギュラー争いも熾烈だった。そんな環境の中だったが、私はあまり争うことが好きではなく、気も小さいため、先生から叱られては、よく練習中に泣いていた。自信の無い私とは正反対に彼女は、自信を持ってプレーをしていた。
先生に叱れようが、それを見返すように試合で素晴らしい結果を残していた。私は、そんな彼女に強い劣等感と憧れを抱いていた。そんな気持ちとは裏腹に、彼女は私によく懐いた。彼女の必死に練習に励む姿や堂々としたプレー姿を見るうちに、更に彼女への憧れが強くなっていた。
そんな彼女を知りたくて、毎日のように、下の階の彼女のクラスに遊ぶに行き、質問ばかりした。そうして、彼女とたくさん話すようになり、チームの中でも一番と言っていいほど、仲が良くなった。
立場が逆なのではと思うほど、後輩の彼女は大人びていた。しかし、ある時、予想もつかなかったことが起きた。彼女が部活を突然辞めると言って練習に来なくなった。あまりにも突然の出来事で、私にとって受け入れ難い事実だった。何より私が彼女の変化に気づいてあげられなかったことに憤りを感じた。実は、彼女から、プレッシャーを感じているというのは、前々から聞いていたのだ。
それにも関わらず、それほど思い詰めていることに全く気付けなかった。彼女は、プレッシャーも力に変えられる人間なのだと勝手に信じこんでしまっていたのだ。彼女は、時期キャプテンとして、大きな期待を寄せられていた。いつしかその期待に応えなければいけないというプレッシャーに徐々に押し潰されていたのだ。
私は彼女に電話をかけて話を聞こうとした。しかし、彼女は「もう無理なんです」と申し訳なさそうにいうばかりで何も話そうとしなかった。そこで、初めて彼女の繊細な性格に気づいた。
私は、そんな彼女の力になりたかった。自信の無い私をたくさん励ましてくれたのは彼女だったからだ。最初のうちは、他愛もない話をして、落ち着くのを待った。たくさん彼女と話をするうちに徐々に心の内を話してくれるようになった。
その甲斐あってか彼女が部活に戻ってきた。その後は、彼女とは電話でお互いに何でも話すような仲になっていった。なぜだか、その時間がどうしようもなく楽しかった。いつも電話の10分前には、携帯を持って何話そうかなとスタンバイしていたのが懐かしい。その日の夜もいつものように他愛ない話をして、そろそろ切ろうとしていた時、少し間があって、彼女が「好きです」と言ってくれた。
私は、きっと先輩としての好きだろうと考え、「ありがとう」と返した。すると、「ほんとに悩んで出した答えです。私と付き合ってくれませんか」といつもより自信がなさそうな声で言った。そこで、この子は本当に私のことを好きなのだなと感じた。本当に嬉しかったし、どきどきが止まらなかった。私も彼女が大好きだった。しかし、人の目を気にしてばかりの私にはどうしても付き合う覚悟ができなかった。
私は、この時の答えを今でも後悔している。どうしてあの時、彼女と付き合わなかったのか。あれから彼女との距離は、少しずつ開いていって、あの頃の楽しい日常にはもう戻れなくなってしまった。いつか彼女とあの頃について話してみたい。もう一度、恋人ではなくても、親友としてあの頃のように楽しく過ごしたいと思っている。
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