髪も心も整えてもらった1時間。「プロフェッショナル」を知ったとき

癒しが欲しい。
ある日、そんな気持ちがふと湧いて、
当日予約で美容院に足を運んだ。
昔はずっと同じ美容師さんにお願いしていたけれど、ここ最近はその時限りの美容院を転々とすることが増えた。
どこに通っても、大きな不満があるわけではない。でも、ここじゃなきゃと思える場所にも出会えていなかった。
けれど、今回は久しぶりに相性の良い美容師さんに出会えた。たった1時間だったけれど、とても濃い時間だった。そこには、学びがぎゅっと詰まっていた。
まず印象に残ったのは、カウンセリングの時間の長さ。 挨拶を交わしてから施術に入るまでの時間がとにかく丁寧だった。
髪の状態を見ながら、私の髪の特徴を理解しようとしてくれたり、今抱えている悩みを丁寧に引き出してくれたり。施術が終わったとき、どういう状態になっていたいかまで、自然な会話の中で聞いてくれた。
無理に詰め寄るような感じではなく、本当にナチュラルなやりとりの中で情報を集めていく様子に、「お客様に最大限の価値を届けるために一番大切なのは、相手に興味を持つことなんだな」と感じた。
興味があれば、自然と質問は出てくる。あとはその中で、引き出す力や質問力をどう磨いていくか。美容師に限らず、どんな仕事にも共通する大切な力だと思った。
そして何より心に残ったのは、その美容師さんの“努力”が会話の中に滲み出ていたこと。
これまで通った美容院の話をする中で、彼が近隣の美容室を調査していたり、他店のブログを定期的に読んでいることを知った。その結果、私との会話もスムーズだったし、自然と話が弾んだ。プロ意識の高さが伝わってきて、胸がぎゅっとなった。
もうひとつ驚いたのは、自然と自己開示をしてしまっている自分に気づいたときだった。
初めての美容師さんと深い話をすることなんて、これまでなかった。だって大概一度きりの関係なら、あまり自分のことを話す意味もない気がして。でも、今回は違った。お会いして5分も経たないうちに、普段ならなかなか人に話さないようなことをぽろっと口にしていた。
自己開示したくなる人と、そうでない人の違いはなんだろう。
話すぞ!と意気込むのではなく、自然と話したくなる雰囲気。言葉では説明しきれない感性の領域なのかもしれない。がつがつしても引かれてしまうし、逆に引きすぎても距離が縮まらない。人によって感じ方が違うからこそ、本当に難しい部分だと思う。
「美容師さんって厳しい世界ですよね」と私が言うと、その美容師さんは静かにこう返した。「どの業界も、どの仕事も厳しいですよ」
この言葉にも、心を打たれた。
仕事に貴賎はない。
それぞれの現場で、それぞれの厳しさと向き合っている。深い理解と誠実さを感じた瞬間だった。今、美容院はコンビニよりも多いとも言われている。
お客さんの入れ替わりが激しい世界で、技術だけで勝負するのは簡単ではない。
もちろん、希望するスタイルを再現する技術力はとても大切。でも、それだけじゃない。
美容院に癒しを求めているお客さんも多い。
そうなったら、技術以上にコミュニケーション力や人柄の部分で選ばれることもあるのではないかなと。
私自身、昔お世話になっていた美容師さんのことを思い出しても、技術面というよりも「この人と話すとホッとする」という理由で通っていた気がする。
そうした気持ちを美容師さんにぶつけてみたところ、彼はこう言った。
「実力と人柄、どちらも大事。どちらもですね〜」
多くを語ることなく、その一言に込められた想いが胸に響いた。どちらか一方じゃない、両方を大事にしている。そのバランス感覚こそが、信頼を生むのだろうと感じた。
髪の悩みや日常のケアまで丁寧に伝えてくれたお兄さん。切り方もどう見ても上手だったが、それ以上に謙虚で、控えめな姿勢が印象的だった。思わず「上手ですね」と伝えると、少し照れたように「ありがとうございます」と言った後、こう続けた。
「どれだけ技術を磨いても、結局は人と人なので。満足いただけたかは、お客さんが決めることですから」
顧客目線でいることの大切さ。一回一回の施術を大切にし、値段以上の価値を届けようとする姿勢。その姿に、「プロフェッショナルとは何か」「働くとはどういうことか」を考えさせられた。
最後に彼が言った言葉も、忘れられない。
「お客さん、くせ毛の方が多いんですよ。ご縁がありますね」日々のケアが大変でコンプレックスに感じていた私のくせ毛。でも、そのおかげで出会えたご縁に、心から感謝できた。
社会人基礎力とも言えるようなエッセンスが詰まった、美容院でのひととき。
髪を整えただけでなく、心も整えてもらえたような密度の濃い1時間の素敵なおもてなし体験だった。
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