一目惚れは練習でうまくなる。一目惚れが下手な私が学んだこと

一目惚れにはあまりいい思い出がない。私は一目惚れが下手くそだった。
一番後悔しているのは、バッグだ。ショッピングモールで、大きめのピンクのバッグを見つけた。大きいバッグが欲しい、でもなかなか理想のバッグに出会えないことを嘆いていた当時の私は、一瞬でそのバッグに心を奪われた。
中学生だった私は、母におねだりした。買ってください、と。しつこくしつこく頼んだ。だってもうこんな素敵なバッグには出会えないと思ったから。荷物が入るのに可愛いバッグがあるなんて、運命だと思ったから。なんとか買ってもらえたが、そのバッグを買う条件が出された。
はっきりとは覚えていないが、部屋の片付けをするとか、宿題をすぐやるとか、そんなことだった気がする。家に帰って、母の携帯電話のカメラの前でその条件を飲むことを宣言させられた。でもその宣言をしてでも欲しかった。
そこまでして買ってもらったバッグだったが、なんと一度も使うことはなかった。
家に帰って、宣言動画を撮った後、喜んでそのバッグを使おうとした。だが、可愛くないのだ。店に陳列されていたときはあんなに輝いて見えたバッグが、全然可愛く見えないのだ。なんだかおばさんぽく見えた。姉には「なんでこれにしたの?」と言われ、妹には「宣言動画まで撮ったのに」と笑われた。
そのバッグが可愛くなくなったのではない。元々私の好みではなかったのだ。それなのにどういう訳だか、一目惚れしてしまった。そのバッグは結局母に譲渡し、今でも母が使っている。母にはぴったりだった。どう考えても中学生が持つデザインではなかった。母が買ったものを母が使っているのでまだ救われたが、一目惚れに失敗したという事実は私を傷つけた。
はっきりと覚えている一目惚れ失敗エピソードはそのバッグだけだが、他にも同じようなことは何度もあった。それからだんだん学び始めた私は、一目惚れを警戒するようになった。私が一目惚れをするときは大抵失敗だ、冷静になったら魅力的ではない、と考えるようにした。
だから一目惚れしたときは、一度持ち帰って検討し直したり、家族や友人に相談するようになった。するとやっぱり後から「やっぱり可愛くない」と思うことは多かったし、「似合わない」「可愛くない」と他人に言われることも多かった。
それがここ数年で変わり始めた。
一度持ち帰って考えても、「やっぱり買うべきだ」と思うことが増えた。相談したときに「いいね」と言われることが増えた。
私は一目惚れで失敗することがなくなった。
一目惚れをするのは私の性質で、一生変わることのないことだと思っていた。だからこそ一目惚れを警戒していた。しかし実はそうではなかった。一目惚れというのは勉強やスポーツと同じで、練習すればできるようになることだったのだ。
今でも一目惚れを警戒する癖はなくならない。一目惚れが成功するのも百発百中ではないだろう。だから警戒する癖はなくならなくていい。
でも私は、もう一目惚れが下手くそな人間ではない。人並みに一目惚れに成功したり失敗したりする人間だと、胸を張って言える。それが胸を張れることなのかはさておき。
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