私は料理が嫌いだ。言い切れる。大嫌いだ。

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料理はまず買い物から始まる。スーパーまで往復10分、物価高に眉間に皺を寄せ、「高っ!」と何度も心の中で叫びながら食品をカゴに入れる時間が20分。

買ったものを冷蔵庫など然るべきところに入れる作業に5分。
レシピを調べるのにもなんだかんだで10分かかる。
野菜は洗わなければいけないし、肉や魚は冷凍&解凍しなきゃいけない。どんな料理にしろ、どんな量にしろ、この作業に10分〜20分は必要だ。

そして茹でるなり、焼くなり、電子レンジに放り込むなりして、その後は5分〜40分くらいかかる。

そしてお待ちかねの皿洗いだ。5分〜20分程度かかる。

お米を炊いた日なんて、釜だけでシンクの半分を取るからとても大変だ。
というか、まな板は定期的に消毒しなければいけないし、包丁も研がなければならない。
それから、スポンジも定期的に変えなきゃいけないし、シンクも洗わなきゃいけないし、ネットも変えなきゃいけない。

とにかく、時短飯と見せかけても最低1時間程度はかかる。そして、快楽の食べる時間は15分未満である。ああ、今日も糖質過多だったな、緑黄色野菜しっかり摂れていないな、「まごわやさしい」も摂れていないな、と考えながら。

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いつもおいしくて、スムーズに食にありつけるとは限らない。間違えて弱火にし忘れたまま煮込んだり、鶏むねになかなか火が通らなかったり、玉ねぎを4等分しただけで目が開かなくなったり、少量入れるはずの調味料をドバッと入れてしまい、味が変わってしまったり。
料理のデメリットは、ほぼ無限大に思いつけるかもしれない。

だけど最近私の料理のたった1つのメリットを見つけてしまった。

それは、夫が私の料理が大好きだということだった。
当時はまだ彼氏だった夫と同棲し始めてから夫はかなり太った。どんどん太った。
私たちも理由がわからず、揚げ物やお菓子は控えよう、運動をしよう、夜遅いご飯の時は減らそう、などなど約束して、2年くらい痩せようと努めてきた。
そのまま痩せずに過ごし、とあるタイミングでなぜか私が拒食っぽくなり、エネルギーが無くなってほぼ料理ができなくなった。

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その結果、夫は少しずつ痩せて健康体重になった。
そしてまた私が元気になり、料理をし始めた時に私たちはふと気づいた。

もしかして、私の料理が原因で、夫は太ったのではないか、と。
私が作るのは揚げ物、高カロリーな料理ではない。ほとんどがヘルシーで、どちらかというと薄味のものばかり作っていた。

どういうことかというと、夫は私の料理が大好物でついつい食べ過ぎてしまうとのことだった。「れてぃちゃんの料理が美味し過ぎて、食べ過ぎちゃうんだよ!」とニッコニコの顔で言われてしまった。

そんな漫画か映画かドラマかアニメか小説かSNSか他人の自慢話みたいなことが起こるはずはないと思って、当初の私は否定していた。

なぜなら、私は料理教室に通ったこともないし、誰かに教えてもらったこともなく、レシピを見て、適当に調味料を減らしたり、別の調味料や野菜を入れたりしてアレンジしているだけだから。

しかし、観察してみると私が作ったものは全て食べてくれている。
翌日のお弁当の分も、なんて思って2.5人前作っても無くなるし、結構作り過ぎちゃったな、って時も作ったものは全部消え去っている。

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言われてみれば同棲し始めた頃、料理が面倒だからわざわざ多めに作って作り置きしようと思ったのに、夫が全部食べ切っていたことが多々あった。

やはり、私の料理のせいで夫は太ったのだ。
作り置きすらさせてもらえない、なんて幸せな悩みなのだろう。
私と同棲して痩せ細るより、太ってくれた方が幸せだ。
もちろん食べ過ぎも問題だけど、夫が食べすぎると把握してからは体に悪いものは滅多に作らないこととし、一度に作る量をしれっと減らすようにしている。

食べることが人生の中で優先順位が高い夫の胃袋を、満足度高く満たせているなら本望だ。
夫の人生の重要な箇所で彩りと楽しみを与えられているなんて、幸せなことだ。

楽しく食べて元気になって、仕事したり、私の面倒を見たり、私の生理的に無理なトイレ掃除をしてもらったりして、夫と私の生き方が幸せになっていると気づいたのは最近のこと。

というわけで、我が家には作り置きがない。私は明日も頑張って夫のためだけに、大嫌いな料理をしよう。