母の味噌汁は心に沁みる。
そう深く思ったのは最近の話だ。

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私は、現在大学4年生で自分の人生に迷い中だ。
大学3年生になった年に、声優を目指したいと思い大学を1年間休学し、福岡から東京へ上京した。

旅行で訪れていた東京とは違い、1人で過ごす東京は、孤独の渦に巻き込まれ、あの時はホームシックで涙が止まらなかった。
上京して2週間くらいは、夜な夜な泣いたり、家族にビデオ通話をし、ひどい泣きっ面を見せたりと今では驚くぐらいの涙の量だったなと思う。
そして、バイトや演技の勉強や1人暮らし生活、初めての地でいろんな経験を通し、濃ゆい1年間を過ごせたのであった。

しかし、そんな楽しい充実はその1年だけだった。
大学へ復学すると、真剣に将来を目指す人、就職活動を取り組んでいる人、もう向き合っている人ばかりだった。

一方私は、就活をするわけでも、将来を決めるわけでもない。
ただ、迷い続け、ただ、単位を取るだけ。

声優の勉強はというと、中々そう上手くはいかず、心が折れていっていた。
周りからは、どんな進路にするかと話を振られるが「迷うね」の言葉しか返せない。
そんな、焦りと迷いの1年間を結局過ごすことになった。
気づいていなかったが、誰にも相談せず、本当の孤独だったと思う。

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そして、大学3年生の2月頃。
オーディションや進路相談がたくさんあったが、妹が体を崩したため実家へ帰省した。
自分にとって、チャンスもあった。
しかし、私は折れきった心でもう進めなかった。

大学4年生になり、いろいろと手続きで実家から帰らなければいけなかった。
しかし、身体は、思うように動かなくなった。
気分は憂鬱で喉も通らない、ホームシックになったあの頃よりも泣いてしまうようになっていた。

そんな自分を心配して、家族は食卓にいつも呼んでくれたが、中々そのタイミングでご飯を一緒に食べることができなかった。
焦燥感にかられ、お腹が空かなかった。

それでも「少し食べな」と母が深夜頃、私を呼んでくれた。
少しでも食べたいと思い、私は食卓へ向かった。
たけのことワカメと豆腐の味噌汁を電子レンジで温め、ご飯を茶碗半分くらい盛った。
ご飯を目の前にしても何だか心が落ち着かず、まず、味噌汁を一口ゆっくり飲んだ。
すると、身体全体に味噌汁の栄養が巡るように、一気に温まった気がした。

ボロボロの身体と心に響いたのだろう、いつの間にか涙が溢れていた。
ご飯もツヤツヤで美味しく、茶碗半分のご飯はペロリと食べていた。
母の味噌汁は、ガチガチの心を優しく解すそんな温かさがあった。
美味しいと食べれる事やご飯を作ってくれる事がどれだけ幸せで貴重な事か本当に尊いものだ。

この味噌汁は、私の不足していた栄養を全て補給してくれたと思う。
一気に、ホッとした気分になれた。

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人は1人では生きれないと、この味噌汁を通して私は感じた。
辛い時、悲しい時、あなたが、1番落ち着く誰かといてほしい。

その時、迷惑なんて思わなくていいんだ。
あなたは、それまで頑張ったから少しでも自分を癒して、優しくしてほしいんだ。
人生は、どうなるかなんて分からない。

でも、人生は悲しみ、焦り、焦燥だけではやっていけない。
楽しさ、温かさもあってほしい。
できれば、あなたの人生が温かいものに包まれるそんな日々を私は祈っている。

その後、徐々に身体は回復しており、今は自分のペースを大事に生きている。
選択肢に迷いながらも温かいものを探している。
人生を長く見る事もいいが、その瞬間瞬間の温かさを感じていこうと思う。
母は、偉大だ。