午後3時。

ドラマの再放送を観ながら洗濯物を畳む母が好きだった。
学校から帰ってきて、おやつを食べて、母の隣に座って、一緒にテレビを観ている時間が好きだった。

「あんたも手伝いなさい」と言われて、畳むのが簡単なタオルと靴下を洗濯物の山から探すことも好きだった。

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ドラマが始まってから、晩ご飯を作るまでの1時間。

大好きだったその時間を母から奪ったのは私だ。

1志望の公立高校に落ち、滑り止めの私立高校に通うことになり、それまで専業主婦だった母が仕事を始めた。
高校生活を送ることにいっぱいいっぱいだった私は、母の大切な時間を奪っていることにも気づかなかった、というより、罪悪感から気づこうとしなかったのかもしれない。

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父は、母に、自由な時間を与えない。
テレビも見せないし、母と私が2人で出かけることでさえ癇に障るほどだ。

だから、母にとって、ドラマの再放送を観ているあの時間は貴重で、絶対に守らなければいけなかったのに、私がそのことをちゃんと理解したのは社会人になってからのことだった。

今まで学校という狭い環境の中で生きていた私だったが、社会人になり、社会という広い世界の中で生きることで価値観が広がり、自分の家族の形について考え直すきっかけができたのだ。

母に自由な時間を与えたい。
好きなテレビを観て、好きなものを食べて、好きなところに旅行に行って、自分の人生を楽しんでほしい。

そう思い、良い方法はないかと考えたが、父の考えが変わらない限り、どれも困難なことだった。

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お昼に母とマクドナルドを食べた日は、ゴミ箱に入っていたマクドナルドの袋を見て激怒。
私が旅行先で、母が欲しいと言っていたものをお土産に買ってきただけで不機嫌に。

そういう頑固な父だからこそ、助けられたこともあるし、一生懸命働いて家族を養ってくれたことにも感謝はしている。

そんな父が定年を迎えた。
毎日起きてから寝るまで、母は父の生活リズムに合わせ、父がしたいことに付き合う。
父が食べたいものを作り、父が行きたいところへついて行く。
「ママに選択肢はないから」と母は言う。

以前、父に聞こえるように、母に「今1番どこに行きたい?」と聞いたことがある。
母は、「連れて行ってくれるならどこでもいい」と答えた。
母はもう、自分より人を優先することに慣れてしまったようだった。
そして、父はそのことに気づかない。

母がいつも観ていたドラマのように、ブラウンのダウンジャケットをた型破りな検察官がこの問題を解決してくれたらいいのに。