真夏のかき氷。優等生でいたかった私が初めて「はみ出した」日

中学2年生の時、学校の授業の一環で私達は真夏の炎天下の中、次々と英語で作ったパンフレットを地元の観光地で配った。やっとノルマを達成したのは午後3時。みんな解放感を噛みしめ、せっかく観光地に来たんだから遊んで帰りたいと言い始めた。
でも寄り道は禁止されている。連帯責任といって私にまで飛び火するのを恐れた私は必死に止めた。その頃の私は少しでも教師の意に背くことをするのが怖かったのだ。優等生でいなければならなかったのだ。
私達のいざこざに気が付いた引率の先生がやってきた。生徒から慕われているフランクで、フレンドリーな先生だ。事情を聞くと優しいお母さんの表情で先生は言った。
「みんな頑張ったし、せっかくだし、暑いし、いいよ。学年主任に怒られたら私が責任取るし。いっておいで」
「やった、さすが!」
みんなが一斉にかき氷の屋台に駆けこんで行く。私と先生だけがその場に残った。
「なつめちゃんは行かないの?」
「え、私は…いい、です」
良いと言われても行く勇気が私にはなかった。その先生が信じられなかった。主任に怒られた時、本当に私達をかばいきれると思えなかった。
零れ落ちそうなくらい高く盛られた真っ赤な山が4つ。そのうちの1人が山に豪快にかぶりつく。3人がキャッキャと騒いでいた。みんながかき氷を頬張って、頭が痛いだの、舌が赤くなっただのというのが少し離れたここからでも聞こえた。楽しそうだと思った。馬鹿だと思えたら楽だったのに。
先生がいつの間にか私の方を見ていた。
「食べなくてもいいんじゃない?」
私の心を読まれているみたいだった。4人がストローのスプーンを持った手でおいでと私を呼ぶ。
いっぱいあるからと女の子が私に氷を差し出す。あんなに頑なに食べようとしなかったのに
、なぜか受け取ってしまっていた。促されるまま3口ほど口に入れた。冷たくて、甘ったるかった。
「なつめちゃんの舌も赤くなってる笑」
反射的にサァーっと血の気が引いていく。これで主任の先生にバレたら私も怒られてしまう。なのに、私の舌の赤さを笑う子の、無邪気な笑顔を見たら、なぜか少し大丈夫な気がした。引いた血の気が戻ってくる。
少しびくびくしながら、それでも私はみんなと一緒にかき氷を食べた。食べるほどに、心は温かく、舌は麻痺するほどに冷たくなっていく。連帯責任なら、みんな一緒に怒られる。みんなで怒られるなら、悪くはないかも。いつの間にか、私は先生のことなんて忘れて、純粋にみんなと笑っていた。
食べ終わって、やっと我に返る。ぱっと後ろを振り返ると、私たちの担任と、学年主任の先生が和やかに談笑しているのが見えた。
その日は、私にとって「はみ出してもいい」と初めて感じた日だった。
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