柔らかめのプリンと固めのプリンどちらが好き?
そんな質問をされたら迷わずに柔らかめのプリンと答えるくらいには、柔らかめのプリンが大好きだ。プリンが用意されているお店に行くと必ず聞く質問は「このプリンは柔らかめですか?」。一生忘れられない柔らかめなプリンに出会った、そんな私の旅の話。

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学生のうちに海外で一人旅がしたい!
私は、旅が好きだ。けれど「ひとりたび」はしたことがなかった学生最後の春休み。私は友人とのタイ旅行を終えて、バンコクからひとりでベトナムの首都ハノイに向かった。
ハノイを選んだのは、安いから。学生の旅はお金がない。だから予算をかけずに旅がしたい、そんな理由でハノイを選んだ。
見るものすべて初めての景色なのに、誰とも感動を共有できない寂しさを感じながら歩いていくうちに、そんな寂しさは無くなった。自分が行きたい場所、食べたいもの、話したい人、全てを自分の最高の時間にできる。少しずつだけど「ひとりたび」の魅力に惹かれていった。
けれど、誰かに話しかける勇気はなく、インターネットの力を借りてお店を調べた。検索ワードは、「ハノイ 美味しいお店」。
このたった2つの検索ワードでたまたま見つけた私の一生忘れられないプリンのお店は、偶然にも泊まっていた宿から近かった。そうと決まるとすぐに向かった。直感だった。柔らかめのプリンなんて書かれていないのに、写真を見た瞬間、直感が働いて、すぐに向かっていた。

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倉庫のような建物。中には赤いプラスチック製のイスがたくさん並べられていた。
多分このお店、観光客に有名なお店ではない。地元の人が集まるにぎやかなお店。そんな印象をもった。
お店の前にいたのは、トレンチ帽を被った40歳くらいのおじさん。さわやかな笑顔で私を出迎えてくれたような気がした。初めての海外「ひとりたび」の私にとって、一人でお店に入るのはとても勇気のいることだった。お店の前にいたさわやかなおじさんのおかげで、勇気をもらった。

頼んでからは、待ちきれなかった。ようやく私の前にプリンが運ばれてきた時には、理想のプリンに出会えた、そんな気持ちさえあった。
赤いプラスチック製のイスがテーブル代わりになっていた。プリンが、テーブル……ではなく、赤いイスの上に置かれた時のぷるぷると揺れる状態が、このプリンは間違いなく美味しい!と私を確信させてくれた。
プリンを食べる前にこんなにもワクワクしたのは、初めてだった。
そして、運んだ一口目。プリンを食べた感想には使わないかもしれないが、ふわふわしていた。濃厚なのにさっぱりしている。私が理想としている、柔らかめのプリンに出会えた瞬間だった。

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そして、驚いたのはその値段。2019年当時で、1つ約35円。こんなにも美味しいのに駄菓子ほどの値段で私は幸せでいっぱいになった。
幸せはお金じゃない、自分の感じ方捉え方1つでどんな状況でも楽しさと幸せを感じることができる。大好きなプリンのおかげでそんなことも学べた。

柔らかめのプリンが好きで良かった。まさかなんとなく決めた初海外「ひとりたび」で、忘れられない味に出会うなんて……。
人生なにがあるか分からない!なんて大袈裟だけど、最高の旅になった。