彼に対する気持ちが、よく分からなくなったことがある。
離れて暮らす彼と会えるのは、週末だけ。しかし、休みも都合が合わず、ふたりでゆっくりと話す時間もなくなっていたときのことだ。

“もうすぐ結婚するはずなのに、穏やかじゃないなぁ”と感じながらも、彼にどうやってこの気持ちを伝えればよいのか迷っていた。

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わたしは上手に取り繕ったりすることができない。
だから、せっかく会えた休日も、どことなくよそよそしく接してしまい、しまいには口数も減ってしまっていた。

「なんで今日は静かなの?」と、心配してくれる彼の言葉にも、うろたえてしまい、気持ちを伝えるきっかけを逃した。

彼のことは好きだし、大切にしたい。だけど、お互いの存在が当たり前になりすぎて、気持ちを言葉にすることも、行動で表現することも減ったことで、今も本当にお互い同じ気持ちなのか分からなかった。
この気持ちを伝えることで、彼を傷つけてしまわないかと不安になり、わたしの気持ちが落ち着くまで待てばいいとさえ思った。

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もやもやした気持ちを抱えたまま、数週間が過ぎた。
いつものLINEのやりとりのなかで、お互いの休みが合わないことの寂しさを打ち明けた。
自分の気持ちを、抱えきれなくなってきていたのだと思う。
まだ言葉にするには未熟だったわたしの気持ちが、抑えきれなかった。
「変な距離感を感じる」
いろいろな気持ちが混ざり合うなかで、ようやく彼に伝えた言葉は、なんとも曖昧なものだった。

だけど、そんな曖昧なわたしの言葉を、彼は受け流すことはなかった。
「なにがそう感じさせているのかな?」
と、彼なりにわたしの気持ちを分かろうとしてくれたのだ。

わたしは彼のその一言で、もうほとんど気持ちが晴れたように感じた。
このとき話して分かったのは、変な距離感を感じていたのはわたしだけだったようで、彼はわたしのここ数週間の感情の機微を感じ取ってはいなかった。
“察してほしい”という態度はとらないようにしていたものの、このとき改めて気持ちは言葉にしないと伝わらないんだなと思った。

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離れて暮らしているぶん、LINEでのやりとりや電話も心がけるようにしていた。
けれど、いつしかそれが当たり前になって、ながら作業になっていた。
LINEや電話の先にある、お互いの気持ちにまで心が行き届かなくなっていたことが、そもそもの原因だったのだと思う。
だから、彼に気持ちを伝えたときに、分かろうとしてくれる想いが伝わってきて嬉しかった。
たとえ同じ気持ちを抱えていなかったとしても、彼が寄り添ってくれたことで、わたしの気持ちは救われた。

休みが合わなくて、ゆっくり直接話す時間がないというのは言い訳だった。
ちゃんとLINEや電話で、普段からお互いを思いやれるやりとりができていれば、気持ちが迷子になることはなかったのだ。
だけど、この出来事のおかげで、彼の優しさを改めて知ることができた。そして、そんな彼をより愛おしく思えた。

この先私たちが結婚し、一緒に住むようになったら、今度は一緒にいるのが当たり前すぎて、言葉にせずとも伝わっていると、いつの間にか思い込んでしまうかもしれない。そして、一緒に話す時間に重きを置かなくなるかもしれない。だけど、私たちはお互いの気持ちに寄り添うことができるから、きっと大丈夫。
彼の何気ない一言が、私の心を温かくしてくれたし、心強かった。

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さて、今日は何を話そうかな。どんな反応をしてくれかな。
彼とのお話時間は、今しかない大切な時間の積み重ねだ。だからこそ、心を彼にちゃんと向けて会話をしようと思った、そんな最近の嬉しかった出来事である。