今でも忘れられないくらい私が好きだった人は、中学時代の同級生の男の子です。その子とは二年生の時に同じクラスになりました。

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その子は野球部に所属していて、坊主頭にゲジゲジ眉毛の、そしてよく日に焼けた色黒の肌をしていて、男女分け隔て無く関われる活発な男の子でした。

私はというと、そのクラスには一年生の頃から仲が良かった友人が多く、人見知りの私は大抵その子達とつるんでいました。そのため、二年生になって初めて同じクラスになったその子とは、あまり話す機会はありませんでした。

そして二学期も終わりに近づいた頃、席替えをして初めて隣の席になりました。しかし、隣の席になるまではあまり話したこともなかったため、クラス委員長を務めていた友人から次の席替えでその子と隣同士になると聞かされても、特段何も感じなかったのを覚えています。

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けれど、いざ隣の席になってみると、私は毎朝学校に登校するのが楽しみで仕方がなくなりました。隣の席で過ごしたのは、進級までのほんの数ヶ月ほどでしたが、その期間は今日までの私の人生の中でも、に毎日が輝いていたひとときだったと感じます。

授業中や授業の合間の休憩時間に話した内容は、本当に他愛も無いもので、その子と交わしたのでなければ次の日にでも忘れてしまうようなものでした。例えば、当時流行っていたお笑い芸人のネタや、部活の顧問の話、宿題をしていない話、どんな色の家に住んでいるのか、家族や兄弟の愚痴……時々授業中のひそひそ話が過熱しすぎて、先生に注意されることもありました。

こんなにも仲良くなった男の子はその子が初めてで、これは私の勝手な推測でしかありませんが、その子も私に少なからず好意を持ってくれているのではないかと思っていました。

そのため、進級しても同じクラスであることを願っていましたが、三年生でクラスは離れ離れになってしまいました。当時はかなり落ち込みました。しかし一方で、私がその子の事を好きだとはっきりと自覚したのも、別々のクラスになってからでした。あまりにも恋愛のテンプレート的で胡散臭さもありますが、離れ離れになって初めて、「ああ、私はあの子のことが好きだったんだ」と強く実感すると共に、非常に寂しく感じた記憶があります。

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別々のクラスになってからは、時々廊下で顔を合わせた時に挨拶するくらいの関係性になり、それも次第に無くなっていきました。今思えば、中学校を卒業するまで意識し続けていたのは私だけで、その子にしてみれば、沢山いる友人の一人に過ぎなかったのだろうと思います。

女々しい限りですが、その子と別の高校に進学してからもしばらく私は、もしもあの時一世一代の勇気を出して告白していたら、あの頃の楽しい日々の延長のような毎日を過ごせていたのではないか、などと考えていました。その後はその子と会う機会も無く、また私自身も目の前の人間関係に忙しくて時々、いつかまた会えたら良いな、と思いながら過ごしてきました。

そして、一年程前に私が現在も仲良くしている中学時代の友人から、私が好きだったその人は、今では結婚してまだ小さな子どもがいることを聞きました。

それを聞いた時、私にはもう完全に手の届かない存在になってしまったのだと、クラスが別々になった時のように、為す術のない事への虚しさを感じました。

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叶わなかった恋への言い訳のように聞こえるかもしれませんが、きっと今その人と再会したとしても、もうあの頃のように下らない話で馬鹿笑いは出来ないだろうし、周囲の環境も異なる私達は、お互い惹かれ合うことは無いと思うのです。

だから私はあの頃のあの子に、あの時の私を好きになってもらいたかったな、と今でもふと思うことがあるのです。