「今日はご来店ありがとうございました。イラストレーターさんだったんですね!」

これは、個人営業で飲食店をやっている方から来たSNSのメッセージ。「うっ……」と思ったが、少し悩んで「そうなんです〜」と返事をした。

この「背伸び」が仕事につながるなんて、この時は思いもしなかったのだ。

◎          ◎

私の職場では常に何かしらの作品が展示されている。展示の内容は県内の作家の作品で、イラストやクラフト雑貨が多い。これらが一定の期間で入れ替わる。

オーナーの知り合いに声をかけたり、展示したい人を募集したりするのだが、とある期間、どうしても展示してくれる人が見つからず、趣味でイラストを描いている私が急遽展示することになったのだった。

もともとこの展示はプロ・アマチュアを問わない。でも、まさか私が自分のイラストを飾ることになろうとは。イラストは趣味だった。あわよくば主軸じゃなくてもイラストの仕事ができたらいいなとは思っていたけど、実際には行動に移せずにいた。

恐れ多いとは思いつつも嬉しくもあり、意気揚々と展示の準備をし、個人のSNSでも宣伝をしていた。

◎          ◎

ある日、職場の近くで週末だけ飲食店をやっているお店にご飯を食べに行った。初めて行くお店だったがとても美味しかったので、次の営業日もチェックしようと思いそのお店のSNSをフォローした。そのお店をメンションし、写真もアップした。他意はない。みんなよくやっている食べたもの報告的な投稿だった。

するとそのお店がフォローを返してくれて、私の投稿まで見てくれたらしい。私がイラストを展示しているという、宣伝の投稿を。それで来たのが冒頭のメッセージである。

イラストを描いている人をイラストレーターと言うのなら、私だってイラストレーターで間違いない……はず。プロのような活動はしていないけれど、展示をするにあたって、人様に見せても恥ずかしくないように作品は仕上げた。

イラストで稼いでないのにイラストレーターを名乗っていいのだろうかと悩んだが、イラストの仕事がしたいと思っていたのは事実。思い切って「そうです」と答えたのだった。

◎          ◎

そこからなんと、本当にイラストの仕事が入り始めた。最初はその飲食店からの依頼。そしてどこから聞きつけたのか、SNSでもイラストの依頼が届くようになった。職場の展示イラストのポストカードも買ってもらえるようになった。

私なんてプロじゃないしと思っていたが、言ってみるものである。もちろんたくさん売れるわけではないし、それで生活ができるわけではない。でも、自分が描いたイラストを好きだと言ってくれる人がいて、買ってくれる人がいるというのは大きな喜びだった。

思わぬ「背伸び」発言から仕事が広がり、自分の作品を見てもらえるという喜びも知った。やりたいことは、好きなことはどんどん口に出していくべきだと思った。

私の展示期間は終了したけれど、これからもイラストレーターでありたいと思い、今日もイラストを描いている。