初めて見たときから目が離せなかった。

許されるなら今すぐ触れたいと思ったし、一緒に暮らしていけたら絶対に楽しいだろうなって未来の私たちを想像したりもした。
実際、そうなれるならなんだってする覚悟だった。
姿を見ているだけでキュンとして、私の心を掴んで離さなかった。
私はものの数秒で虜になってしまった。

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「お母さんお願い!散歩だって毎日いくし、面倒もちゃんと見るから!!」

当時12歳の私は、生まれたばかりの“キャバリアキングチャールズスパニエル”という犬種の女の子に一目惚れをした。

「可愛いけど...」と真剣に悩んでいる母を説得するのに、私は必死になってそう訴えた。
命を預かるということは大きな責任を伴う。だからこそ、ただ可愛いという理由だけで簡単に家族に迎え入れてはいけないということは、じゅうぶんわかっていた。

それでも一目見た瞬間から、「この子しかいない!」と私の心は動かなかった。
この子がおうちに来たら部屋の片付けもちゃんとするし、毎日ご飯もあげて散歩も行くから!絶対大丈夫だよ!と自分がどれだけこの子を迎え入れるに相応しいのかを力説し、迷っている母の背中を押すことに成功した。

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「こんなに可愛い子が家族になるんだ...!」

それからの毎日はずっと心ここにあらずだった。「あと何日かしたら家であの子が待っているようになるんだ...!」と考え始めたら高まる気持ちを抑えきれなくなり、下校の途中で毎回スキップをし始めてしまうくらい、私は誰の目から見ても明らかなくらい浮き立っていた。

犬が食べてはいけない食材をリストアップして、「みんなこれを覚えるように!」と、リビングの壁に貼った。思いつく限りの準備をして、ソワソワしながらその日を待ち望んだ。
そうしてやっと我が家にやってきたその子は、私がそれまでに見たり触れたりしてきた生き物の中で、1番ふわふわで、やわらかくて、無垢な目をしていた。「尊い」という言葉の意味を、私はこのとき初めて知った。

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真っ白で綺麗な毛並みだったことから、私たちはその子を「パール」と名付けた。
パールはとても人懐っこい子だった。散歩で誰かとすれ違うと、人でも犬でも関係なく、漏れなく全員に尻尾を振って近づいた。誰のことも疑わず信用して愛嬌を振り撒く姿が、本当に愛おしくてたまらなかった。食いしん坊なパールに何度もご飯を狙われ、その度に「やめてー!」と何度も喧嘩をした。ドックフードはあまり好きではなかったみたいだけれど、私が一粒一粒おはじきのようにそれらを指で弾いて飛ばすと、それをハイテンションで追いかけて食べるのが面白かった。

寝る時はいつもいびきをかいていた。玄関の石のタイルが冷たいのを気に入ったらしく、夏場はそこでグーグーいって寝ていた。散歩から帰ってきて足を洗うときの匂いが懐かしい。濡れた犬の匂いは決して良い匂いではないけれど、パールのだから嫌いじゃなかった。

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パールは10年生きた。私が大学4年生のとき、就職先が決まった矢先のことだった。入院していた病院で息を引き取ったため、私たちは誰もパールの最期を見送ることができなかった。パールをもっと幸せにできたはずだと今でも後悔することがある。もっと美味しいものをたくさん食べさせてあげればよかったし、もっと頭を撫てあげればよかった。

れでもパールに出会えたことは、私たちにとってとても大きな財産になった。パールとの日々がすべて大切な思い出だし、たくさんの笑顔と癒しをくれた。家族の仲が悪くなりそうなときも、パールのおかげで空気が和んでいた。

すべてはあのときの一目惚れがあったから。パールが家族になってくれて本当によかった。