まっしろな体にまっくろな顔。そんなあなたに一目惚れした。

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あなたと出会ったのは、保護猫カフェ。部屋の奥においてあるキャットタワーの中から視線を感じた。遠くから覗いてみてもまっくら。でもなぜか気になって、近づいてみた。近くで覗くと、まっくらな空間の中にぎょろりと2つのおめめが浮かび上がってきた。部屋の一番隅の一番高い穴倉の中にあなたは閉じこもっていた。

私は「出ておいで~」と、優しく声を掛けてみた。答えは「NO!」ならぬ「シャー!」。スタッフのお姉さんも「出ておいで~大丈夫だよ~」と声を掛けるが答えは「シャー!」と一言。近くに寄ってきた先住猫が「ニャア~」と声を掛けても、あいかわらずあなたの答えは「シャー!」だった。保護猫カフェの中で誰よりも、臆病で、繊細で、人見知りで、猫見知りな猫があなただった。

この保護猫カフェの目的は、保護活動の資金調達と保護猫の引き取り手をマッチングすることだった。私たち家族は、新しい家族をお迎えしたくて保護猫カフェに来ていた。人懐っこい猫はたくさんいたし、ずっしり構えた貫禄のある猫もいた。でもなぜか私は、暗闇の中にいたあなたのことが気になっていた。

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保護猫カフェに毎週のように通っているうちにあなたは姿を見せてくれるようになった。相変わらず先住猫に「シャー!」と言ってはいたけれど、私たち家族にすり寄ってくれるようになっていた。まっくらな中にくろい顔とくろい目だけが見えていたから、てっきり黒猫だと思っていた。だがしかし、暗闇から出てきたのはまっしろな体の猫だった。顔はまっくろ、体はまっしろ、シャムやタイと呼ばれる猫の血を継いでいたのがあなただった。

そんなあなたに私たち家族は一目惚れした。美しく気高いあなたに惹かれていた。気安く近づけさせない、気安く触らせない、そんなあなたが、私たちには触らせてくれる。特別な関係になれたような気がして嬉しかった。だから、あなたと家族になろうと私たちは思った。スタッフさんと相談してまずは1か月のトライアル期間を過ごすこととなった。

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順調にトライアル期間を過ごせたら家族になれる。そう思って家へ連れて帰ったその日のうちに、あなたは部屋から脱走し、玄関の下駄箱の下に立て籠もった。気難しいあなたにとって引っ越しはストレスだったのだろう。伝家の宝刀ちゃおちゅ~るにこれほど感謝する日が来るとは思ってもいなかった。ちゅ~るにつられたあなたを部屋に連れ戻せた時には、私たち家族は冷や汗でびしょびしょだった。

波乱のスタートだったが、あなたは我が家に馴染んでくれてトライアル期間は無事に終了した。あんなに臆病で繊細だったあなたは、いつの間にか無防備にお昼寝をするようになっていた。ご飯の時間になるとご飯の棚の前で鳴いて私たちにアピールする。ひも状のおもちゃが大好きで、私の穴が開いて履けなくなったストッキングはあなたのお気に入りのおもちゃになっていた。トライアル期間終了後、スタッフさんから正式に引き取りの手続きを案内されて、あなたは大切な家族の一員になった。

歳を重ねていくにつれて、まっしろだった体はクリーム色に変化し、骨格も獣医の想定を超えるほど大きく育った。性格もいつのまにか丸くなっていた。一目惚れしたあの頃の面影はほとんど残っていないけれど、あなたは気高く美しい私たちの大切な家族です。私たちと家族になってくれてありがとう。これからもどうぞよろしくお願いします。