この日本社会では、「清潔感のある髪型」という概念が抽象的ながらも、人々を縛り付けている、と私は幼い頃から強く思ってきた。

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くせがひどく、毛量が多く、おろすとどの長さであっても広がってしまう、というのが私の髪の毛の特徴だ。そのため、昔から外に出る時は絶対に髪を結んでいる。

中学生の頃からは前髪を作り、毎朝アイロンでのばすものの、時間がしばらく経つと癖が出てしまう。部活で走った後は、前髪がライオンの鬣のようになり、汗をかくとすぐにクルクルになる。

とりわけ厄介だったのはプールの授業だ。髪を自然乾燥させるためにおろしているとしばらくして癖が出てきて、変なあだ名をつけられ、まだメンタルがさほど強くもない、この頃の私はとても傷ついた。私の髪が大変なことになる時でもストレートのままの髪の毛は羨ましかったし、私の大惨事に比べたらどうってことないのに、前髪が少し割れただけで愚痴をこぼしている友達が妬ましかった。高校時代までは、髪の毛に関して悪い思い出ばかりである。

大学生になると、アルバイトで貯めたお金で縮毛矯正をした。このことは母親に以前から頼んでいたものの、「薬品を使うのはどうなのか」という理由で断られていた。そのくせ、彼女自身も私の髪の毛のことを色々言ってきていたのだから、ずっと憎んでいた。しかし、縮毛矯正をして3カ月もすると、癖のついた地毛が徐々に生えてきて尚更気になるようになった。「リタッチ」という形で3カ月に一度の美容室通いが始まり、お金もどんどん飛んでいく。

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そうして困っていた頃に、当時好きだった女優が大胆なパーマをかけた写真を目にした。ストレートヘアーに憧れていたが、それを機にパーマにした方が自分のくせ毛が気にならなくなるのではないかと思い、思い切ってかけてみることにした。この時ばかりは美容室選びにもこだわった。私にとってはこれまでの人生の中でも、それなりに大胆な試みだったので、背伸びして渋谷の美容室を予約した。

ごく普通の一般大学生がそんなところに行って良いものかと初めは及び腰だった。実際、有名店だったようで、そこはカラフルな髪の人ばかりで、比べて地味すぎる私は場違いな気がした。

しかし、担当の美容師の方が本好きで話が合ったということもあり、そこでも少しは安心できた。縮毛矯正の履歴があったので、ちゃんとパーマがかかるか分からないと言われたが、ここまで来てしまったら手は引けない。2時間ほどの施術後、予想に反して、美容師さんも驚くほどに綺麗にパーマがかかった。加えて、その美容室の雰囲気に影響されて、所々にゴールドのハイライトカラーを入れてもらった。人生初パーマ・初カラーである。どうなるか想像がつかなかったが、我ながら似合っていた。数日、数週間経っても、パーマは健在で、朝の準備はバームを塗るだけでよくなった。

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たかが髪の毛、と思う人もいるかもしれない。しかし、社会は私たちに「清潔感のある髪型」を求め、そうでない髪型を排除する、または馬鹿にする人たちが実際にいる。そこからコンプレックスが植え付けられ、それを消そうと努力する。アイロンや縮毛矯正が私にとってのそれだった。

しかし、それを活かす方法もある。パーマをかけてから、私はくせ毛にコンプレックスをさほど感じなくなり、パーマが完全に抜けた今現在の髪型にも満足いくようになった。それまで憧れていたことと真逆のことをしてみると、案外それが生きやすくなる第一歩なのかもしれない。