髪を伸ばす。ウィッグをかぶらなくても生きやすい世の中になるまで

私はお尻くらいまで伸ばしていた髪をバッサリ切ってショートカットにした。4年ぶりのショートカット。別に失恋したわけでも願掛けしていたわけでもない。ただ、50cm以上切れる長さになったから切ったのだ。
私はヘアドネーションをするために髪の毛を伸ばしていた。ロングヘアなんて、毎日の手入れもめんどくさいし、メンテナンスも大変。早く切りたくて仕方なかった。でも、誰かのためになるならと私は髪の毛を伸ばし続けていた。
そもそも、ヘアドネーションとは、がん治療などでウィッグが必要となる人たちへウィッグ用の髪の毛を寄付する活動だ。寄付の長さは30cmが基準になることが一般的だ。私も一番最初のヘアドネーションは35cmの寄付をした。そして今回は60cmの寄付をした。なぜ倍の長さまで伸ばしたのか。それはロングウィッグを作るためには50cm以上の髪の毛でないと作れないからだ。
ロングウィッグの需要はかなりあると寄付団体の人がインタビューで話していた。需要はあるがロングウィッグを作れるだけの長さの寄付が圧倒的に足りておらず、なかなか難しいのが現状だそうだ。その話を聞いて、次寄付するときは50cm以上の寄付をしようと私は決めていた。
伸ばしている間に何度もそろそろ切りたい…と思うことがあった。毎日のシャンプーやリンスの消費量も多いし、ヘアオイルをしっかり毛先まで塗らないと毛先が傷んで使い物にならなくなってしまう。当時、働きながら大学生をしていたこともあり、時間にも心にも余裕がなかった。でも、こんな私でもだれかのためになるのならと、ロングヘアの手入れを継続した。
寄付できる長さが50cmを超えたとき、ようやく寄付できる!とウキウキしながら美容院の予約をした。待ちに待った美容院では、まず髪をいくつかの束に分けてヘアゴムで結んだ。そして、ヘアゴムから少し余裕をもって切るのだが、美容師さんの提案で自分でハサミを入れることになった。ジョリ…ジョリジョリ…と髪の毛の束を切った時の手の感触を今でも覚えている。そして、私から生えている髪の毛と完全に切り離された髪の毛の束はずっしりと重たかった。こんなに重たいものを数年もの間ぶら下げていたのかと思うと、感動が込み上げてきた。すべての束を切り終わりすべての髪の毛の束を持ち上げて改めて、これまでの歴史と重みを感じた。
自分で髪の毛を切った後、美容師さんにショートカットを仕上げてもらった。仕上げてもらった軽くなった頭に心を躍らせながら私は帰路についた。自宅と美容室の間にあるポストに、切り離した私の髪の毛の束が入ったレターパックを投かんした。この髪の毛が誰かのウィッグになってくれるのがうれしくてたまらなかった。必要な人のもとへ届きますようにと願いを込めてポストへ一礼し帰宅した。
そして私はまた髪の毛を伸ばしている。あれほど大変だったというのにまた伸ばしている。私は普段の生活の中で誰かの役に立っていると実感する瞬間は多くないと感じている。だからこそ、明確に誰かの役に立つ活動に取り組むことは私自身の生きがいになると感じている。ウィッグをかぶらなくても生きやすい世の中になるまで、私はこの活動を続けていこうと思う。
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