社会人になって初出勤の日に一目惚れ。惚れさせ上手な上司に告白した

社会人初めての出勤の日。一体どんな人たちに囲まれながら仕事をしていくことになるだろうかと、不安でいっぱいだった私。そんな私の心をほぐしてくれたのは、Tさんだった。
私の仕事は眼鏡屋さんでの接客業。だから、職場は店舗なので、出勤するときはお客さんと同じように店舗に入ってバックヤードに入る。
初日は店頭に立っていた2、3人に挨拶をして、バックヤードに行った。バックヤードにいたのは、Tさん。
「あ、はじめまして。Tです。よろしく」
声色を聞いてこの人優しそうだなと思ったのと、なかなかの美男ではないかと自分に言い聞かせた。きっとその時の私の瞳は輝いていたであろう。
Tさんの優しさにあふれた声と、きっと今まで女子を惹きつけてきたのではないかと思わせる爽やかな顔が、元カレと別れて1年のブランクがある私の心に、ダイレクトに届いてしまった。
心臓の音がバクバクしているのを必死に抑えようとしたが、惚れてしまって思わずにやけが止まらなかった。変に身体中が熱くなった。そんなこともTさんは知らないであろう。きっと私が社会人はじめましてだし、緊張しているとしか思っていないはず。
確かにそうなのだ。私は“初めて”に対してド緊張してしまうタイプ。特に人に初めて会うという行為は心臓が口から出そうになるので、できればしたくない。でも、この時はTさんのおかげで何とか乗り越えることができた。そしてこの日、私はこの人といつか結ばれる日が来ないだろうかと勝手に祈ってしまった。
Tさんは、働く同僚たちにもよく声をかけていた。仕事のことはもちろんそうなのだが、プライベートのことでも、人の心の隙を上手に見つけて、話す人が思わず話しちゃったけど、なんだか心地が良いみたいな感覚にまでさせるのである。
店舗の中だと店長の二番目にあたる人だから、普通はみんな距離をちょっと置いたりするのだろうけど、Tさんはむしろみんなが距離を縮めたくなるような人。人のことをよく観察して、その人その人にあったアプローチをする。だから比較的人に対して警戒心の強い私でも、Tさんには心を許してしまう。
ある時Tさんは、
「明日は何するの?休みでしょ」
と言ってきた。シフトの作成をしているのは、Tさんなので同僚の休みは知っているのだろうが、でもなんで覚えているのかと突っ込みたくなった。
まあでも聞かれたことはしょうがない。その時は地元で祭りがあるのでそれに参加するつもりですと言った。すると
「へー!いいじゃん、楽しそう。何食べるの」
子どもか。私は杏あめが好きなのでそれは必ず食べますと言った。
「じゃんけんあるやつ?結果教えてね」
そう言ってきた。なんだこの人。本当に惚れるからやめてほしい。もう惚れてしまっているのだが。
こんな他愛もない話で距離を詰めてくる。本人は自覚がないのだろうけど。私も見習いたいものだ。
杏あめの件は、じゃんけんに勝ってしまったのでこれは報告しないといけないと思い、Tさんに伝えた。
「やるじゃーん」
これが私の上司かと、こんな人が身近にいてくれるならこれほど幸せなことはないと思った。
そして単純すぎる私は、想いを伝えようと決心した。言葉で直接伝えるのが一番だが、そんな度胸はないので、手紙を書いて渡すことにした。Tさんの休憩時間と私の休憩時間が被ったので、私は、そのタイミングでこれどうぞと言って渡して去った。
数日後、同じようにTさんも手紙で返事を書いてきた。細々しく洗練された字が並び、そこには「気持ちは嬉しいけど、想いには答えられません」と綴られていた。
久しぶりに胸が痛くなった。涙があふれた。でも、手紙の最後にLINEのIDが書いてあった。そこからTさんと私はよくLINEをするようになり、ご飯に行ったり、映画を見に行ったり、ボーリングをしたりするようになった。
以前よりもずっと仲良くなって話しやすくなったし、謎にたまにボディタッチをしてくるのが気になる。
Tさんが私のことをどう思ってくれているのかわからないけれど、振られた私は、今でも一緒に遊んだ時に、いつか告白してくれないかななんて思ってしまう。
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