私は過去に一度だけ、どうしても忘れられない、人生初、最強で最高な一目惚れを経験した事がある。遡る事、何年前になるのだろう。きっと10年以上は前になるが、あの時感じたトキメキは今もまだまだ、新鮮で新しいままだ。
恥ずかしい話、この一目惚れは「現実の物」ではあるが、「現実の者」ではない。
私はあの時、ゲームの中の登場人物の1人に、一目でどうしようもなく強く惹かれてしまったのだ。今も、ずっと。

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一目惚れした、その運命の日。今も尚ハマっているアーケードゲームの最新バージョンの更新日だったので、この日も心躍らせながらプレイに勤しんでいた。

まだ見たことのないキャラクター、ステージ、ボスバトル……全てが新鮮で、これが毎月の楽しみであり、救いでもあるのだ。

……実は、この日に更新されていたうちの1人の彼……キャラクターに、私は今も尚惚れ込んでいる。

このキャラクターには進化前は2つ、進化後も2つイラスト……絵柄が存在している。進化前の姿は雑誌の付録についている絵柄と、ゲーム内で獲得できる絵柄の2種。進化後の姿は通常プレイで獲得できる絵柄と、更に条件を満たした時に獲得できる、所謂「ボス専用」の絵柄があった。

出現条件を満たした家族が、ボス登場の彼を出してくれた時、そしてボス専用の絵柄を見た途端、雷に撃たれるのと、天使が舞い降りるのと、ファンファーレのような音が鳴り響くのと……この世に存在するその類の言葉を全て並べ立てても、全部を合体させても、なんとも言いようがない、そして上手く言い表せないくらいに、強い衝撃のある一目惚れをしたのである。

一目惚れの衝撃が強すぎてその辺り、一撃目の記憶だけ、うっすら飛んでいる気さえする。事実、覚えているけれど、よく覚えていないのだ。

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残念ながら、一目惚れしたその当日には出現条件を満たせるキャラクターが手元におらず、進化前の彼だけを手元に迎えて、泣く泣く帰宅した。……後日、意気込んで何プレイも何プレイも繰り返し、時には家族の力を借り……苦労の末、ようやっと自分の手元に迎え入れる事ができた。

たった一目で惚れた絵柄が、ずっと手元に欲しかった存在が自分の"許"に来てくれたのがたまらなく嬉しかった。今でもハッキリと、昨日のことのように思い出せる。

実はそれから後、手に入れたという満足感から数ヶ月そのまま彼を放置してしまったのだが、数ヶ月後から、なぜだかとても"喚び"出さなければならない気がして、どうしようもなく会っていたくて、ゲームの場に何度も何度も喚び出して、その結果10云年来の相棒……いや、最早“愛棒”とでもいうべきか、どこか不思議な絆を感じられる存在になったような気がしている。自分の名前で自分のカードが作れる、という、当時では珍しかったゲーム性もその不思議な感覚に影響しているのかもしれない。

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実はそのゲームは数年前にサービス終了しており、つい最近正統な続編が出たものの、その続編にはまだ私が一目惚れした「彼」の存在はない。

続編の方も始まったばかりで、序盤で……まだまだ何が起こるかはわからない。新しい出会い、まだ見た事もないキャラクターたち。「彼」のいた国のストーリーの更新があるかもしれないその時まで、長くともあと数ヶ月。冬にはきっと分かるだろう。

それまでも、それからも。新しく出会ったキャラクター達と、新しい縁を紡ぎ、今後の展開で「彼」がいてもいなくとも、どこかに「彼」のいた痕跡を、「彼」と歩んだ記憶を、道筋を導に、同じようで違う世界、新たな一歩を、新たな絆で踏み出していこうと思う。